塩田潮
先日、自民党の野田毅税調会長の話を聞いた。
「自民党は消費税率の当面10%への引き上げを打ち出した。これは自民党の反省の証。もう先送りはしない。わが党の生命線だから、引っ込めることはできない」と語り、民主党については「問題の本質は与野党ねじれでなく、与党内のねじれ。われわれは進めたいけど、与党の中が整理されていないのに、自民党が突貫精神でまとまって賛成というわけにはいかない」と述べている。
野田佳彦首相は去年9月の民主党代表選で「消費増税実現」を明言して政権を握り、今年3月の増税法案の閣議決定と国会提出、通常国会での法案成立という方針を打ち出して、まっしぐらに突き進む。
国の借金は先進国の中で最悪、予算編成もままならず、日本国債の信用不安もささやかれ、増税不可避と見定めたのは疑いないが、状況はきわめて厳しい。衆参ねじれで、参議院での法案可決は見通しが立たない。その前に、衆議院でも野党の賛成がない限り、民主党内から50人以上の反対が出たら否決となるが(過半数は 241で、民主党勢力は 291)、小沢元代表ら反対派は衆議院で優に50人を超える。
消費増税は必要だが、それにしても昨秋に増税を宣言して、国民への丁寧な説明も与党内反対派との調整も、併せて必要な歳出削減や経済活性化への取り組みも不十分なまま、1年足らずで遮二無二、増税法案を成立させるやり方は、あまりに粗雑、乱暴、拙速だ。事情は異なるが、1989年の消費税導入の際は大平首相の一般消費税の提唱以来、地ならしに10年をかけた。94年の5%への税率引き上げも、3%でのスタートから5年を要した。
前述の野田自民党税調会長は「与党内の結束と合わせて、前作業が必要」と話しているが、これほどの大増税プランは、対国民、対与党内反対派、歳出削減など増税の環境整備といった「前作業」をおろそかにして突き進んでも、成功はむずかしい。
それとも野田首相の直球一本の姿勢は国債の信用不安回避などが狙いで、もしかすると、本音はいまからじっくり「前作業」に取り組んで長期戦で増税を目指す「急がば回れ」作戦なのか。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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