中国が南シナ海で強硬姿勢を貫く根本原因 どうせ米国は何もしないと高をくくっている

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南シナ海では中国は計画的に埋め立て工事や飛行場建設などを行なってきたので、米国は強く問題視し、種々の機会に中国側に米側の懸念を伝えていた。今回の首脳会談でもこの問題は最大の懸案の一つだった。

会談内容は公表されなかったが、会談後の記者会見において、オバマ大統領は「争いのある海域で埋め立てや軍事拠点化を進めることに深刻な懸念を習主席に伝えた」と率直に説明している。これに対し習主席は、「南シナ海は昔から中国の固有の領土であり、中国の主権」と明言した。南シナ海の問題について中国は妥協することはないと公言したのだ。

習主席は訪中を成功させるため、前述の「爆買い」や地球温暖化対策の例を引くまでもなくかなりの努力を払ってきた。もしそのような協調的精神に徹するのであれば、南シナ海問題については違いを目立たせないですませる方法があったはずだが、各国の報道陣や外交官が居並ぶホワイトハウス前の芝生の上で、真っ向から、オバマ大統領の説明に反論することを選んだ。

なぜ南シナ海について強い態度を取ったのか

習主席が南シナ海の問題についてこれほど強い態度を取ったのはなぜか。それは、中国の海洋(大国化)戦略のためであり、また、台湾と大陸の間の海域は中国の領域とみなしているからである。しかし、このような考えは国際法に違反しており、日米両国も周辺の東南アジア諸国も到底認めることはできない。

各国のそのような見解を中国が知らないはずはないが、中国として態度を変更することは、残念ながら、できないだろう。中国では、安全保障や軍の関係することは主権にかかわることだという観念が強く、譲歩をすれば中国の現体制が脅かされると思っているからだ。

しかし、中国は強硬姿勢一本やりなのではない。「米国と中国はとくに経済面で相互依存関係にあり、両国とも関係をぶち壊すことはできないし、ありえない。したがって小競り合いを起こっても正面衝突は回避できる。そうであれば中国だけが譲歩しなければならない理由はない」とみなしているのではないか。中国は計算もしているのだ。

これは、国際法やルールにのっとった考えではないが、中国がよく引用する「小異を残して大同につく」ことに他ならない。この言葉は巧みな表現だが、異なる意味になりうる。とくに、「小異を残して」が問題であり、「小異を解消しようと努めるがなかなかできない」というのが常識的な解釈だが、「小異は解消しなくてもかまわない」ということもありうる。中国が、米国との基本関係さえ壊さなければ、衝突やサイバー攻撃など「小異」であり、それが解消されなくても怖くないとみなしているのならば後者であろう。

習主席がホワイトハウスで南シナ海について強気の発言をした時、「小異を解消する」という姿勢は感じられなかった。米国の主張には耳を貸さず、中国の方針を貫徹しても両国関係が根本から破壊されることにはならないという考えの下での発言だった可能性がある。

米国は、中国側の駆け引きに応じることなく、毅然として南シナ海を守る姿勢を示す必要があるだろう。さもなければ東南アジアにおける米国の同盟国との関係が根本から崩れかねない。その意味で、米国は対中国関係において、大きな岐路に立たされている。次期大統領は難しい課題を背負うことになるだろう。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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