訪問の最初に、習近平主席がボーイング社の飛行機を300機購入すると発表したことは印象的だった。内装や塗装などの工程は中国内で新設される工場で行なわれるので、アメリカ人が期待するほど雇用増に繋がらないとの懸念も指摘されているが、全体として中国の爆買いぶりは、「アメリカ製品を大量に購入してくれる友好国」として、現地に強くアピールした。
温暖化対策について進展があった点も重要だ。習主席が2017年から排出量取引を導入するとの方針を明らかにしたことは、歓迎すべきことだ。米国はCO2排出の抑制にかねてから消極的だったが、今回のことが刺激にもなっただろう。
安全保障・軍事では挑戦的な態度
一方、安全保障・軍事に関係することでは、習主席の態度は全般的に硬いままであり、時には挑戦的でさえあった。私は、習主席の訪米を通じてとくにこの点に注目している。
サイバー攻撃については、米側は中国軍あるいは軍人が関与しているとの考えであり、関与した軍人を特定し、出頭を求めていた。さらに、中国企業による米企業からの情報窃取問題が加わり、今年の8月に訪中したライス大統領補佐官はサイバー攻撃を行なった25の中国企業名を示し、制裁の可能性を示唆するなどして中国側の対応を強く促した。
そのため中国としても話し合いに応じざるをえなくなり、孟建柱政法委員会書記(公安の要、政治局委員)を派遣して米側との妥協点を探らせた。習近平主席の訪米時に米中両国がお互いに攻撃しないことに合意できたのは、米中双方でこの問題を何とか収めようと努めた結果だ。
しかし、この合意により米側のいら立ちが完全に解消されたと考えるのは早すぎる。今後サイバー攻撃問題について中国がはたして合意を尊重するか米側は引き続き注視するだろう。中国政府が企業の行動を完全にコントロールできるかという問題もある。
サイバー攻撃問題と違って、中国軍の行動については、習主席は妥協の余地を見せなかった。
訪米に先立つ9月初め、中国の艦艇がベーリング海で、公海上ではあるが米領海の近くを航行した。米国防総省は、この航行は国際法違反でなく問題視していないとの見解であったが、刺激されていた可能性は排除できない。日本政府は海上自衛隊に中国艦艇のような行動を決して許さないだろう
また、その後(15日)、山東半島の東130キロメートルの黄海上で、米軍の偵察機の前方わずか150メートルを中国軍の戦闘爆撃機が横切るという事件が発生。これも公海上であったが、米国は危険な行為であり、航行を妨害されたと指摘した。
米中の海軍および空軍は以前にも衝突や摩擦を起こしており、さすがに中国としても今回は危険を回避する必要性を認め、空軍同士の行動規範をつくることに合意している。
これらの事例は偶発的に起こることである。それに対し確信的な行動といえるのが、中国による南シナ海進出の問題だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら