ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる マイケル・ルイス著/東江一紀訳 ~国民性が顔を出す「国家破綻」の実相

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本書の面白さは、インタビューを元にバブルに踊らされた人々の姿を克明に描いていることだ。世界的な超低金利の中でマネーゲームに熱狂したアイスランドでは、漁師が何の金融知識もないまま巨額の資金を運用するようになり、金融危機の最中に中央銀行総裁はオフィスにこもって詩作にふけっていた。危機の背景には「信じがたい縁故取引のネットワーク」があった。いわば“花見酒の経済”で、膨大な借り入れと過大な信用創造が行われていた。正気に戻ってみれば考えられないことが起こっていたのである。

ギリシャでは、公務員の高給、潤沢な年金制度、汚職、さらに脱税が日常化されている実情が具体的な例で克明に描かれている。「金の流れがあまりにもずさんで……あの国では予算をどれだけ確保したかは把握していても、それを何にどう使ったかを、誰も記録していない。あそこは発展途上国です」というIMF(国際通貨基金)の担当者の言葉がギリシャのすべてを物語っている。

こうした危機の背後に、それぞれの国の国民性があることを示す一種の“文化論”として読むこともできる、極めて興味深い内容である。ただ、副題の「欧州から恐慌が返ってくる」という論点を期待する読者は失望するだろう。日本の問題の参考にはならない。

Michael Lewis
ノンフィクション作家。1960年生まれ。米国プリンストン大学から、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに入学。ソロモン・ブラザーズに職を得る。その数年の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』で作家デビュー。その他の著書に『世紀の空売り』など。

文芸春秋 1470円 243ページ

  

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