日本で「子持ち様」論争が過熱する根本原因 敵は出産の可能性がある女性ではない
誰でも体調を崩すことがあるし、どうしても外せない出張に行かなくてはならないこともあるし、予想のできない事態で仕事を休まなくてはいけないこともある。
いずれにしても個人が悪いわけではありません。むしろ、個人はみんな大変な思いをしながら頑張っていて、本当はそこに対立構造はないはずなんです。だから、叩き合うのではなく、助け合う道を探りたいですね。
女性医師が増え続けたら医療は崩壊する?
内田:本当にそうなんですよね。そのシステムの問題を、まさに今仕事に子育てにと頑張っている人たちに向けてはならないと思うのです。「誰それが悪い」ではなく、「そのシステムがおかしい」ということにみんなが気づき、その改善に向けて働きかけていくことが非常に重要ですね。
女性、既婚者、妊娠している人、子育てをしている人が働きにくい環境は、男性、独身者、妊娠していない人、子育てをしていない人にとっても働きにくいはずなのです。
私の専門分野である医学の世界で言うと、2018年に東京医科大学などいくつかの大学の医学部入試で構造的な女性差別があったことが明らかになりました。女性は男性よりも合格に不利になる点数操作が行われていたというものです。
このニュースが報道されると、不当な差別に対するまっとうな批判も寄せられた一方で、「でも、どんどん女性の医師が増え続けていったら、医療は崩壊するんじゃないだろうか」といった意見も散見されました。私が教鞭をとるハーバード大学医学部は学生の6割が女性で、2021年にはOECD(経済協力開発機構)加盟国の全医師の半数が女性となりました。また、東欧諸国やバルト3国は女性医師の数が多いことで有名で、ラトビアなどは2017年時点で医師の約7割が女性です。そういった世界の状況と比べてみると、「女性医師が増え続けたら医療は崩壊する」という発言がいかにおかしなものかがわかります。