日本で「子持ち様」論争が過熱する根本原因 敵は出産の可能性がある女性ではない
ただ、こうした考えに対し「交通事故は『不慮の事態』だけど、子どもを持つのは『自主的な選択』だ」という指摘を受けることがあります。「自ら選択して子どもを持って、それを理由に休みをとることが増えたのに、交通事故の人と同じように扱われるのはフェアじゃない」というわけです。
システムの問題を個人に向けない
塩田:私の職場はボストンにありますが、夫が他州に住んでいて月に2度週末に帰ってくるだけです。そのため、日頃の送り迎えや家事全般は私の役割です。私の職場には同じような境遇にある人がほかにも数人います。私の職場の学科長は女性で、その人もかつては、夫はボストンとは遠く離れたところにいて、子どもと暮らしながら仕事をしていました。
また、私の同僚には、独身の人も、妊娠中の人も、シングルマザーも、癌闘病中の人も、親の介護中の人も、離婚協議真っ最中の人もいます。同じ職場で働いていても人それぞれだし、さまざまな状況に置かれているわけです。
そうした理解があるから、子どもが熱を出したときに早く家に帰ったりすることについて、「子持ち様は特別扱いされている」という発想が、私の職場では生じにくいのかなと思います。
ここには1つ、システムの問題もあると思うのです。
たとえば私には仕事の1つとして、学生に授業をする任務がありますが、その授業は1人ではなく2人の先生で教えることが推奨されています。ゲストレクチャーを入れることも推奨されています。
私の妊娠中は、万が一体調を崩してしまったときに備えて授業を教えるバックアップの人がついてくれました。今学期は同僚が健康上の理由で1学期休みをとることになったため、その先生が教える予定だったコースを10人以上の教授が合同でカバーしています。もう一人の先生も夏に大怪我をおって1カ月授業ができなかったので、交代で複数の同僚がカバーに回りました。