以上のような国鉄改革の目的からすれば、営利を追求する株式会社であるとはいえ、国鉄の事業を引き継ぐJR会社に対し単なる営利企業としての利益追及に走らせるわけにはいかない。JRの実質的な株主は国(現在では独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)であるからなおさらである。
鉄道事業法や鉄道営業法などとは別の法律により、民営化された後でもJR会社には基幹的輸送機関としての責務を果たさせることが必要であった。そこで、日本国有鉄道に代わるJR会社を規律するため日本国有鉄道法に代わるJR会社法が設けられることになったのである。
公務員同様、贈収賄罪が適用される
通常、鉄道会社は、その特殊性ゆえに鉄道営業法や鉄道事業法などの規制を受けるものの、組織や経営においては他の株式会社と同様に会社法で規律される。この点は他の民間会社と何ら変わりはない。
しかし、JR会社は、これに加えて、JR会社法により組織や経営など様々な局面で国交相の監督など国の関与を受ける。代表者の選任や解任などには通常の株式会社とは異なり、取締役会での決議だけでは足りずに国交相の認可が必要であるし(JR会社法6条)、事業年度の事業計画にも国交相の認可が必要である(JR会社法第7条)。国交相は、JR会社法を施行するために必要な時にはJR各社に対して業務に関し必要な命令をすることができる(JR会社法第13条)。
また、JR会社法により、JR会社の役員や職員は「みなし公務員」の扱いをうける場面がある。職務に関して金銭や利益の提供などを受ければ収賄罪が成立するし(JR会社法第16条)、金銭や利益の提供などをした者には贈賄罪が成立する(JR会社法第17条)。最近でも、JR貨物において、貨物ターミナルの物流施設の納品に伴う贈収賄事件が発生したことは記憶に新しい。
本来、贈収賄罪は公務員にのみ適用がある犯罪である(刑法197条以下)。したがって、他の民営鉄道の従業員や役員は、職務に関して金銭や利益の提供等を受けても収賄罪にはならないし、提供をした側も贈賄罪にはならない。会社にたいして背信行為をした従業員や役員には背任罪(刑法第247条)や特別背任罪(会社法第960条)が成立することはあっても、これらは会社に損害を与えない限り成立はせず(未遂は別)、金銭等のやり取りがありさえすれば犯罪が成立する贈収賄罪よりは犯罪の成立範囲は狭いのである。
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