アップルを「金融事業」へ走らせた地殻変動の正体 相次ぐ"異業種参入"の裏で何が起きているのか
これら3つの役割が相互に補完し合うことで、エンベデッドファイナンスは従来の金融サービスの枠を超えた、利用者中心のサービスを生み出している。
金融業界の構造転換が起きている
地域や案件によって役割分担のパターンは多様であるが、複数の企業で異なる役割を担いつつ1つの金融サービスを提供するという本質は共通している。この新たな潮流は、金融業界全体が垂直統合から水平統合へと移行する大きなパラダイムシフトの一環として捉えられる。
従来の金融サービス提供モデルでは、金融機関が商品の組成から販売、管理に至るまでのすべての機能を自社グループ内に抱え込み、垂直統合的にサービスを展開してきた。しかし、エンベデッドファイナンスの進展に伴い、構造が大きく変容しつつある。金融商品の組成・管理と販売が分離され、金融機関は商品の組成・管理に特化する一方で、販売機能は顧客の日常生活により密着した非金融事業者が担うようになると予想される。
それは、単なる役割分担の変化にとどまらない。販売を担う企業は、単一の金融商品に特化するのではなく、複数の金融商品を取り扱う傾向が強まると考えられる。これにより、金融業界は従来の垂直統合型から、より水平統合的な業界構造へと進化していくだろう。
顧客の視点からすると、非金融事業者から金融サービスの提供を受けているようにみえるため、ただ、金融サービスの担い手が変わったように感じられるかもしれない。しかし実際には、複数の企業が有機的に連携し、それぞれの強みを活かしながら1つの統合されたサービスを提供する新たな形態へと進化しているのである。これは、金融業界における「流通チャネルの革命」と呼べる大きな変革である。
興味深いことに、垂直統合から水平統合への業界構造の変化は、規制当局の取組みとも軌を一にする。日本においても、「金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法)」が「金融サービスの提供に関する法律」に改称され、「金融サービス仲介業」が2021年11月に創設されたが(その後、同法は2024年2月に「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に改称)、これはまさに構造変化を後押しするものである。
金融サービス仲介業は、単一の登録で銀行、証券、保険、貸金のすべての分野における仲介業務を可能にするライセンス制度である。これまでは、各金融分野が独自の仲介制度をもち、業種ごとの縦割り構造が強かった。そのため、複数の金融サービスを提供したい事業者は、銀行法、保険業法、金融商品取引法などに基づき、それぞれ個別の登録や許可を取得する必要があった。
しかし、金融サービス仲介業の創設によって、1つの登録でこれらの仲介業務をすべて行うことが可能となり、事業者は従来の法令の縦割りを超えて、より柔軟かつ包括的に複数の金融サービスを提供できるようになった。金融業界の垂直統合から水平統合への変化はさらに加速していくだろう。
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