アップルを「金融事業」へ走らせた地殻変動の正体 相次ぐ"異業種参入"の裏で何が起きているのか

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金融業界専門のリサーチ会社であるJuniper Researchのレポートによると、エンベデッドファイナンスの市場規模は、2024年時点で決済領域を中心にすでに920億ドルに達しており、2028年にはおよそ2.5倍の2280億ドルに拡大すると予測されている。

同レポートでは、BtoBセグメントとエンベデッドインシュアランス(組込型保険)が今後の成長を牽引すると見込まれており、特に組込型保険は、ECプラットフォーム上での提供が増加することで2024年から2028年にかけて125%の成長が期待されている。

また、ボストン コンサルティング グループとQED Investorsによる2024年6月公表のレポートでは、エンベデッドファイナンス単独の市場規模が2030年までに3200億ドル以上に達すると予測されている。そのうち、中小企業セグメントは1500億ドル、消費者セグメントは1200億ドル、大企業セグメントは500億ドルと見込まれている。

市場規模の大きい金融業界において、これほどの成長が期待されることは稀であり、これから金融領域へ参入しようとする企業にとっては大きな事業機会になるだろう。

「金融を組み込む」とはどういうことか

エンベデッドファイナンスとは、直訳すると「組み込まれた金融」という意味になるが、「金融を組み込む」とはどういうことか。シンプルな事例として、インターネットで海外旅行を予約するケースを取り上げてみよう。

インターネットで海外旅行を予約する際、従来は旅行代理店等のサイトで航空券やホテルを予約し、その後、必要に応じて海外旅行保険に別途加入する必要があった。しかし、エンベデッドファイナンスの場合、旅行代理店等のサイト上で航空券やホテルの予約と同時に海外旅行保険への加入手続も行うことができる。同時に申込みができると、入力データをそのまま引き継げるため、個人情報や旅行行程を何度も入力する必要がなくなり、スムーズに保険に加入できるようになる。

このように、わざわざ金融機関に出向いたり、別のウェブサイトで手続をするのではなく、ニーズのあるところに組み込まれた金融サービスを自然な導線で利用できるようにする、というのがエンベデッドファイナンスの発想である。

しかし、「金融以外のサービスと金融サービスを組み合わせて提供する」こと自体は決して新しい概念ではない。たとえば、先ほどあげた海外旅行の事例でいえば、空港で海外旅行保険に加入したり外貨両替をしたりしたことがある人は多いだろう。これも、金融以外のサービスが提供される「空港」という場所で金融サービスが提供されている事例といえる。

ただし、従来のアプローチは、需要が集中する特定の場所に金融機関がカウンターや出張所等を設置する形式であった。空港のように大きな需要が見込める場所であれば、保険会社や銀行がカウンターや出張所を置くことは可能だが、実際、世の中に存在する金融サービスへのニーズの大部分は、日常生活のさまざまな場面に点在した小さいニーズだ。これらの点在する小さなニーズ1つずつに金融機関が対応することは、コストの観点から困難であった。

また、従来の金融サービスは、ライセンスの登録等から商品の組成、システムの運用・保守、販売に至るまで、原則としてすべてを自社グループ内で完結させる形態が主流であった。

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