徴兵を逃れ、軍から脱走したミャンマー人の前途 現地ルポ ミャンマー・タイ国境での支援活動
ミャンマーの最大都市ヤンゴンでタクシー運転手として生活していたナインさん(仮名・35歳)は2023年春、突然、徴兵を通知された。
「頭が真っ白になりました。なぜ自分が選ばれたのか、わけがわかりませんでした」
仕事で家を留守にしている間に役場の人が来て告知された。当時はまだ徴兵制が施行される前だった。
「おそらく民主化デモに参加していたことで役所にマークされていたのでしょう。私の家は貧しかったから、優先的に徴兵リストに載せられます。金持ちの家族よりも価値が低い。そう思われていたと思うとやるせないです……」
徴兵から逃亡、家族を守るために国外脱出
「妊娠中の妻を残して逃げるのは本当に心苦しかった。でも早く逃げないとすぐに追手が来て軍に連れていかれてしまう」
会社から借りていたタクシー車両をその日の夜に返し、バスを乗り継ぎ、ヤンゴンから西の方向にあるエイヤワディ管区(地域)の町中に隠れた。そして半年以上が経った後、数人の協力者に妻を連れてきてもらった。彼女は2023年11月に無事に男の子を出産していた。
「こんな事態とはいえ、我が子の出産に立ち会うことができなくて、妻には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした」。ナインさんは生まれたばかりの息子の小さな手を握り、家族のためにこの現状を抜け出すことを決意した。
その後、彼は家族を連れてタイとの国境の街ミャワディへ避難した。さらに「中国カジノ」があるシュエコッコの近くに移り、1年近くトウモロコシやサトウキビ、唐辛子の栽培をし、わずかな収入を得て生活していた。しかし、その地でも戦闘が頻発するようになり、2024年末にタイへ渡ることを決意した。
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