小技に、ゴルフの醍醐味あり

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プロゴルファー/青木 功

 プロゴルファーにとって、昨年の暮れに杉原輝雄さん、新年早々に林由郎さんと、二人の先輩が亡くなられたのは心の痛手でもあり寂しいかぎりです。特に林さんは、私が子供の頃、我孫子の実家の近くに住んでいて、1954年の日本オープンに勝つなど当時のトッププロ。子供ながらに「プロゴルファーは試合に勝つと高額な賞金がもらえ、外国にも行ける」そんなあこがれを抱かせ、私をプロゴルフに導いてくれた恩人でもあり師匠でもある人です。

今では師匠と弟子の関係は、師匠が手取り足取り弟子に教えてくれる、といったイメージがありますが、その頃の先輩プロたちは「盗んで身に付けろ」が当たり前の世界。練習場で先輩たちが打つ、その姿を頭にたたき込んだ記憶があります。「バンカーから何であんなに高いボール、また、地をはうような低いボールを打ち分けられるのか」まるで手品のような感じがしたものでした。
 今にして思うと、盗んで学んだものは忘れることがないんですが、一方的に先輩から教わったものはすぐ忘れます。心のどこかに、忘れたらまた聞けばいい、そんな気持ちが働くんでしょうね。それにキャディー時代は、仕事が終わったらコースに出てプレーをしていい時代ではありません。仕事が終わるとコースの片隅でアプローチやパット戦をしたものです。ほんの少しの小遣い銭を賭けたものでしたが、せっかくのキャディーフィーがなくなるので負けるわけにはいきません。貧しかった当時の私にとって、プレッシャーのかかる戦いだったんです。いずれプロになって、その戦いが役に立つとは思ってもいなかったのですが、そんな経験からゴルフはアプローチやパット、小技から覚えたほうがいい、そう思いますね。

タイガー・ウッズはたしか、3歳からゴルフを始めたと聞いていますが、最初、50センチとか1メートルのパットからお父さんが教えたんですね。短い距離でカップにボールを入れる喜びを味わわせたんです。そして、それを褒める。そんな距離を入れるのが当たり前になると、次は距離をもう少し伸ばし、1メートル半とか2メートルに難易度を上げていったんですね。段々、的を遠くにして、次はグリーン周りからアプローチ、年齢が高くなるにつれてカップから遠くへ離れていったんでしょう。

そうそう、昨年、三井住友VISA太平洋マスターズで勝った東北福祉大学の松山英樹君が小学校低学年のとき、私が道後のコースでプレーをしているのをゴルフ好きなお父さんと見に来て、そのとき私の20ヤードほどのアプローチが偶然ピンに当たったらしい。「ほら、プロはアプローチがうまいだろう」父の言った言葉とその感動が、その後のゴルフの練習に影響を与えたようです。
 ドライバーで遠くに飛ばすのもいいけど、パットやアプローチにも醍醐味があるのを感じられたら、名手の一人です。

プロゴルファー/青木 功(あおき・いさお)
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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