整理しよう。世界の地政学リスクは低下しない。イスラエルやロシアに寄りすぎたアメリカのドナルド・トランプ大統領の今のスタンスでは、解決はむしろ遠のく。しかも、「反イスラエル」という怒りの爆発は、あらゆる合理性を超えて起こりうる。
乱発している「トランプ関税」についても、「これらはあくまで手段であり、ディール(取引)によって、不法移民対策など、あらゆるアメリカの自己都合を実現するためにしているのであり、経済への悪影響も限定的だ」と考えるのは、間違っている。
そもそも、こうした政策はプラスでなく、相手には恨みしか残らない。アラブ世界も、ウクライナも、他の欧州も、同じ感情を持つだろう。隣国のカナダ、メキシコに恨まれては、もう終わりだ。
もともと中南米の反米感情、勢力は強まっている。このままだと、アメリカは本質的に孤立し、トランプ大統領が退任した後の世界にも、永久的な溝として残るだろう。つまり、世界の分断、分裂は回復不可能どころか、加速し、「トランプ後」もそのモメンタム(勢い)は止まらない。これでは、投資は長期的に停滞するし、世界経済は確実に停滞する。
巨大企業の傲慢さが世界を破綻に追い込む
「世界は不幸になっても、企業は成長する。格差は拡大するが資産市場は伸びる」、という考えも間違っている。
今回のトランプ政権の最大の懸念は、テスラのCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏に象徴される、テックジャイアントおよび大富豪経営者の横暴である。
マスク氏のあからさまな横暴が、最後の暴落のきっかけとなる事件を起こす可能性が高いと思っているが、それ以前に、すべてテックジャイアント優先、巨大企業のビジネス優先で何が悪い、むしろそれが経済にとっていちばんよい、というこの経営者たちの傲慢さが、世界を破綻に追い込むのであり、その破綻のときの爆発力を高めるマグマが、いまや急激にたまっているところなのだ。
フランス革命と並べると疑問が増えてしまうかもしれないが、今は、社会の分断は加速し、深まり、不可逆的になっていることは間違いがない。
企業の論理が最優先で、社会で憧れられる存在が経営者、起業家であり、彼らが超大富豪になり、政治家やそのほかの人々を下に見るだけでなく、政治をも支配し、社会も政策も支配するようになる。
AIは企業の富のためであり、消費者や生活者からむしりとる道具として使われるとなると、マルクス思想的な「資本家による労働者の搾取」以上に、賃金労働者にならなくとも、生きているだけで大企業の餌食になるという社会になっているということである。さらに、政治が企業に支配される、それも喜んで支配されている現状では、この不可逆性を逆転する望みはゼロである。
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