7割は課長にさえなれません 城 繁幸著
優秀な若者もつらい。大学院で博士号を取得しても、助手、准教授のポストは少なく、年収300万円以下の任期付き研究員として働くしか道はない。企業に勤めようと思っても就職は難しいからだ。
本書によれば、博士がこれほど冷遇される国は珍しい。主要先進国では学士の価値は大暴落し、ホワイトカラーは修士以上が基本という。そして政策立案者の多くは博士号取得者。世界的に見れば博士はエリート。日本ではフリーター。
政治家や経営者は「雇用を守らねばならない」と言うが、著者の舌鋒は鋭い。経営者の「雇用」とは「正社員の雇用」であり、派遣労働者を切ってしまう。政治家は規制によって雇用環境を向上させようとしているが、結果的には失敗している。
たとえば派遣労働規制によって、同一業務で派遣労働者を3年間受け入れたら直接雇用しなければならないという「3年ルール」ができたが、3年経つ前に契約切りする企業が相次いだ。
派遣規制強化や最低時給引き上げなどの規制が失業者を増やしているのだ。
テレビで雇用をテーマにしたパネルディスカッションを見る機会が増えたが、違和感を持つことが多い。本書を読んで違和感の原因がわかった。ディスカッションに参加している論者のほとんどが、とうの昔に終わった昭和型雇用を前提にしているのだ。彼らが「雇用」という時、暗黙の前提が「正社員雇用」になっている。非正規雇用で低賃金にあえぐ労働者の実態を論者は知らないようだ。
著者はテレビに登場する評論家、学者たちを「エリート」としている。報道するメディアもエリートに属する。新聞、雑誌、テレビ局の記者たちも学者も評論家も出身大学は超難関校だし、身分が保障されている。