(第33回)日本製造業が固執する現場信仰は正しいか?

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しかし、ブランドは残っている。アメリカの消費者は、自室にはVIZIOを置くが、居間に置くのはソニーやシャープだという。そうするのは、画像が優れているからではない。画質の差は、メーカー名を隠せば判別できないという(違うのは、リモコンのスイッチ数だが、スイッチの多くは使ったこともない人が大部分なのだから、これは差別化特性にはならない)。消費者は、それを知っている。居間にVIZIOを置かないのは、単にブランド力がないからである。ソニーやシャープがアメリカ市場で残っているのは、性能がよいからでなく、ブランド力があるからである。

日本の企業は、「よいものを安く作る」のがものづくりだと思っている。現実には、日本のテレビは「普通のもの」になってしまった。しかし、それでも高く売れる。つまり、「普通のものを高く売る」ことも可能なのだ。それは、ものづくりの堕落ではない。

2004年、私がパロアルトにいたとき、ソニーのショールームとアップルストアがほぼ同時期に開設された。ipodが発売された直後で、アップルストアには大勢の人が集まっていた。しかし、ソニーのショールームも人を集めていた。ソニーのブランドは、少なくともそのときは、まだ輝いていたのだ。人々は、そこにいけば「何かびっくりするものが見られる」と思っていた。しかし、いくら待っても「驚くもの」が生まれなければ、ブランドは消えてしまう。残された時間は、それほど多くない。

フォックスコンの親会社であるホンファイの創始者・郭台銘が言ったとされる有名な言葉に、「(ホンファイの)人材は四流、管理は三流、設備は二流、しかし顧客は一流」というのがある。彼は、「ブランド」が持つ力を正確に認識しているのだ(もちろんジョークだし、よい顧客をつかみたいがためのセールストークでもあるのだろう。実際、「人材が四流」というのは、かなりの外交辞令である。日本メーカーは、中国に立地する際にフォックスコン工場の近くを選ぶと言われる。その理由は、フォックスコンの優秀な技術者を引き抜けるからだ)。

だから彼は、「ホンファイ」や「フォックスコン」というブランド名を確立して消費者にアプローチしようとは考えていない。「日本メーカーが持つブランドとフォックスコンの生産力を合わせれば、サムスンに勝てる」と言っている。日本のメーカーは、このメッセージを重く受け止めるべきだろう。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年2月4日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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