「ストレッチをしないでベッドから下りると、よろめいちゃって足が床につかないような感じで、ちょっとこわいの。でもストレッチをやるとすっと立てて、部屋のドアまでの数歩を手ばなしでもフラフラしないで歩けるんです」
幡本さんの部屋は3階にある。各階をつなぐ階段は10段ずつ。古い建物の階段なので、1段が高く、踏み板も奥が深いという。
この階段を20段下りないと、居間やキッチンがある1階には行けず、何より店に出られない。そうなると一番困るのは自分。だから、何があっても階段の上り下りだけはしなくてはいけないと思っている。
「私の部屋から1階まで20段。往復40段。1日最低2往復、できれば3往復はしたい。だからわざわざ階段を上り下りせざるをえない用事を作っています。店で必要なものをあえて3階の部屋に置いたままにして、使うときに取りに行くなどね」
膝が痛み出しても、のんびり構える
幡本さんが歩けることの大切さを痛感したのは、20年前に左膝を痛めたときだった。医師に手術を勧められたが、怖くて断った。階段を上るときは、痛みがひどい左足を踏ん張れないため、一段ずつ這って上ったという。
「あの頃は私も80代で若かったから、がんばっているうちに膝は治っちゃいましたが、歩けないというのはどんなに切ないことかと身に沁みました。おトイレにも自分で行けなくなる。それが一番つらいと思いました」
最近、その左膝が再び痛み出している。医師には痛いときは鎮痛剤を飲んで湿布を貼っておきなさいと言われたが、「もうそれしかやることはないってことよね」とのんびり構える。
一日の大半を過ごす店ではもっぱら座り仕事のため、できる限り商品の出し入れや陳列は自分でやるようにしていると話す。
毎日の食事は、同居の次女が作ってくれる。40年ほど前にから次女夫婦が同居して、仕事を続ける幡本さんをバックアップしている。
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