金融庁監督局長が指摘する保険業界の深刻な病巣 「悪しき慣習から脱し商品の差別化で競い合え」
──顧客の意向がなかったと代理店が装って、自分たちに都合のよい保険会社の商品を引き続き顧客に推奨することも考えられます。
「意向把握手続きの負担が重すぎる」という代理店の声は聞いているが、最低限のヒアリングまで省略してしまうのでは、比較推奨販売をしたことにならない。
ましてや意向確認の証跡を残すときに、顧客の意向がなかったと代理店が勝手に装うというのは、明らかに虚偽の記録をしていることになり、許されるものではない。
問われる業界の倫理観
──比較推奨販売ルールの見直しをはじめとして、金融審の報告書は「最後の詰めは監督指針でよろしく」と、監督局にバトンパスされた項目がかなり多かったように思います。
知恵を絞った、やや創造的な監督指針の改正が必要になるかもしれない。企業内代理店や保険仲立ち人制度の見直しをはじめとして、金融審での議論をベースに、しっかりと腰を据えて設計していく方針だ。
──2度にわたって報告徴求命令を出した情報漏洩問題について。契約者情報の漏洩だけではなく、競合他社の引受基準規定集や出向している銀行の預金者リストといった機密情報の漏洩もあると、取材の中で聞いています。出向者などが思考停止で漏洩しているケースもあって、倫理観が崩壊しているように映ります。
情報漏洩の問題は法令違反の最たるものだが、法令違反とも思わずに違反しているというのが、いちばんたちが悪い。損保からの報告を精査している段階だが、調査の深度にばらつきがあり、実態把握にもう少し時間がかかりそうだ。
──金融業界を見渡すと、損保の不正事案に加えて、金融庁に出向していた元裁判官によるインサイダー事件や、三菱UFJ銀行元行員の貸金庫事件、野村証券元社員の強盗殺人未遂事件など、大きな不祥事が相次いでいます。業界全体が弛緩しているのでしょうか。
それぞれまったく性質の異なる不祥事案だが、投資への意識が強まり、日本の金融市場が盛り上がり始めている状況下で、その担い手である金融機関やわれわれ金融庁が、信用を失うような事態を引き起こすというのは、本当にダメージが大きい。
金融は信用を前提にしたビジネスなので、不祥事につながる予兆を検知し、早期に是正される環境を整えたうえで、一歩ずつ信用を取り戻していかなければいけない。
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