台湾で広がる与党「民進党」への厳しい視線と怒り 新興政党が怒りを代弁する受け皿として存在感

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筆者の理解では、民進党はかつて国民党の一党支配に抵抗する社会運動のなかから誕生した。その後、民主化を経て民進党と国民党が政権を争う構造が形成されていくと、台湾の主体性と中国大陸との融和のどちらを優先するかという論点が両党の対立軸として際立っていった。

権力者・民進党への反発と監督を求める声

たしかに、民進党は台湾社会において、国民党の中国中心主義に対する不満の受け皿となることが大いに期待されてきただろう。しかし、民進党に求められていたのはそれだけではない。

台湾には中国国民党の一党支配時代から、国民党の内外で権力者は憲法によってきちんと制御されなければならないと考える人たちがいた。しかし、蔣介石・蔣経国父子の時代にそれらの人びとが大きな発言力を持つことはなかった。

そのため、国民党に対抗する勢力として誕生した民進党は、脱中国中心主義だけでなく国民党政権をきちんと制御すべきだとの民意によっても支えられ、成長を遂げてきたといえる。

その民進党が今や監督されるべき権力者として市民の厳しい視線にさらされている。これは台湾政治史にとって比較的新しい現象である。

近年の民進党は、自身に反対する人びとを中国共産党と結託する売国勢力と見なす傾向を強めていた。そのように見なされた台湾人のなかで、自分はそうではないと反発を強めた人びとが、民衆党に怒りの代弁を期待しているという構図があるのではないだろうか。

民衆党の勢いは昨年1月の総統選挙時からだいぶ失速しており、民進党と政権を争う一大勢力となりそうな機運は今のところ感じられない。しかし、台湾社会は民進党が政権をとろうと国民党が政権をとろうと、権力者を監督してくれる存在を求め続けるように思われる。

民衆党が国民党と協力態勢をとってもなお一定の支持者をつなぎ止めているのは、そのためではないか。民衆党が党勢を維持するためには、自身が仮に政権を狙える立場になった場合も含め、どんな権力者に対しても批判的でいられるかどうかがカギになってくるだろう。

台湾民衆党は2月、インターネット投票により新党首を選出する。

家永 真幸 東京女子大学教授

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いえながまさき / Masaki Ienaga

1981年生まれ。東京女子大学教授。専門は現代台湾政治、中国政治外交史。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了、博士(学術)。主著に『国法の政治史――「中国」の故宮とパンダ』(東京大学出版会)、『台湾研究入門』(若林正丈との共編著、東京大学出版会)、『中国パンダ外交史』(講談社選書メチエ)、『台湾のアイデンティティ――「中国」との相克の戦後史』。『国宝の政治史』で樫山純三賞学術賞、発展途上国研究奨励賞を受賞。

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