「権威主義」は台湾で一般に、1950年代から90年代までの国民党一党支配体制を批判的に指す語である。当時は国家暴力により市民が抑圧される「白色テロ」の時代でもあり、「緑色テロ」は今や民進党が抑圧者に取って代わったとの主張を意味する。
加えて、集会では柯氏の妻の陳佩琪氏らが、柯氏を釈放して病気の父親に孝行させよと訴えた。家族で過ごすべきとされる春節(旧正月、今年は1月29日)を前に、汚職疑惑よりも頼政権の非人道性を印象づけようとしたものと考えられる。
これらのパフォーマンスに対し、YouTubeの生中継動画上では、実際の聴衆が主催者発表よりも少ないとの指摘や、民衆党を中国共産党の手先として非難するコメントが多く見られた。台湾に限ったことではないが、支持政党をめぐる社会の分断はオンラインで常に可視化される状況にある。
民進党からもこの集会に対する抗議の声が噴出した。立法院の司法・法制委員会では、民進党の委員により「民衆が司法の判断に対して街頭デモを行うのは司法の公正に対する妨害罪の現行犯にあたるか?」との議題が組まれた。
この論点については民進党内からも市民の街頭での政治活動は容認されるべきだとの意見が出ており、すでに鎮静化したように見受けられる。しかし、いずれにしても、民衆党と民進党がそれぞれの正義を主張している事態に変わりはない。
台湾本土意識が強い人たちの民進党批判
今回の民衆党のデモは、台湾と中国との関係をめぐる論点においてはどのように位置づけられるだろうか。この問題は実は少々入り組んでいる。
集会が実施された1月11日という日付は、かつて大陸時代の中華民国が、アメリカとイギリスに認めていた治外法権の撤廃を1943年に実現し、司法の独立を獲得した「司法節」の記念日にあたる。その意味でこのデモには、台湾由来ではなく中国的な価値観を背景にした部分もあったと言えなくもない。
しかし、デモを主導した黄氏はもともと台湾本土意識を強調してきた政治家である。また、集会では柯文哲氏の支持者で人気ユーチューバーの「館長〔格闘家の陳之漢氏のハンドルネーム〕」による演説も行われた。
館長はかねて台湾本土意識を押し出しながら民進党を強く批判するマイクパフォーマンスを行ってきた人物である。今回の集会でも民進党政権を「独裁政府」と呼んで強く批判した。
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