中国は昨年、頼氏の総統就任と中華民国(台湾)の国慶節に合わせて大規模軍事演習を2回行った。筆者は2回目の軍事演習時に台湾の新竹市に住んでいた。学生や市民の反応は「またか」というもので大学も街もいつもと変わらない生活であった。
中国は台湾が実行支配する金門島周辺で海警の活動を活発化させたが頼政権は挑発に乗らないよう冷静に対応し、世論も目立った反応はない。軍事的威嚇によって台湾の世論を変えようという中国の狙いは成功していない。
他方で台湾内部への浸透工作は活発に行われている。台湾の国家安全局(情報機関)によると中国が台湾のネット空間に対して意図的に発信したメッセージは昨年1年間で215万件に上るという。それらはFacebookへの書き込みやTikTok、Instagramなどを通じて加工した動画や画像を流して中国の宣伝を台湾に広め、米台関係に打撃を与えようとするものだと分析されている。
また台湾のYouTubeインフルエンサーらを取り込む動きも活発だ。その工作の一端は、中国共産党に協力してきた台湾のインフルエンサーがその後転向して内幕を暴露したことで生々しい実態が明らかになった。中国共産党は台湾で信仰されている媽祖廟の交流や青年交流、町内会交流など各種の民間交流を通じて中国大陸と台湾が「つながっている」意識を台湾で広げようとしている。それが広がることは国民党にプラスだ。
トランプ政権と中国の圧力、台湾世論の動きが焦点
ここで大きな変数になるのがトランプ政権だ。バイデン政権の対中抑止政策と米台関係強化は一定の効果をあげ、中国の統一促進は掛け声だけで実質は進展していない。それがどうなるのか、中国も警戒感をもってアメリカ新政権の出方を見極めるだろう。日本にとっても大きな関心事だ。
中国にとって昨年頼氏が当選したことは非常に腹立たしいが、その後の台湾政治の展開は悪くはない。2028年に民進党を下野させる展望を抱いているだろう。台湾内部の取り込みを図るほうが武力行使よりはるかに安上がりだし、政権交代を起こした後に統一を迫る方が効果的だ。
習近平政権が2027年に4期目に入ればトランプ政権の方が先に終わる。中国は焦る必要はない。2025年も軍事的威嚇と台湾取り込みの「北風と太陽」に水面下での浸透工作を組み合わせた動きになるであろう。
台湾でもトランプ2.0に懸念が広がる。頼政権は先手を打った。昨年末、台湾政府がアメリカから150億ドル相当の大規模な軍備調達を計画していると『フィナンシャル・タイムズ』が報じた。
これに対してアメリカ国防総省の次官に指名されることが決まったエルブリッジ・コルビー氏が「X」で評価するコメントをした。コルビー氏は台湾の防衛努力が足りないと声高に主張してきた人物である。トランプ政権からの防衛費増額圧力がこれで和らぐわけではないが言われる前に動いたことは悪くない。
頼政権としては国民党が防衛予算増額を阻むならトランプ政権の圧力が国民党に向かうように仕向けたいと思うだろう。国民党としてはトランプ政権から「反米」とレッテルを貼られることは避けたい。この攻防も注目だ。
結論としては日本が今年注視しておくべきは台湾世論の動向だ。台湾で親中世論が突然拡大することはない。あり得るのは中国をめぐる論争に疲れて目を背けてしまうこととアメリカへの信頼感が揺らいで中国に妥協するのもやむを得ないという空気が広がることだ。与野党の攻防で世論はどちらに振れるのか、米中関係の影響はどう出るのか、微妙な変化を感度を上げて観察する必要がある。
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