国民党も罷免投票のほか「死刑廃止に反対」の公民投票を持ち出して対抗する可能性がある。台湾では専門家の間で死刑廃止の議論が行われているが、世論は「死刑廃止の流れに圧倒的に反対」だ。国民党は死刑廃止反対でまとまっているが、民進党内は死刑制度を支持する保守的意見と同制度の漸進的廃止ないし形骸化を主張するリベラル意見が混在する。
死刑を多用する中国との差異化を図り、台湾の進歩的価値を強調したいという考えもある。国民党はそこに焦点を合わせる作戦だ。この議題は国民党に有利に展開する可能性がある。
両党ともこうした極端な手段を水面下で検討している。立法委員の任期は保障されているのだから正当な理由なく罷免投票に持ち込むのは禁じ手だ。同様に、死刑を含む刑罰の議論は専門家の議論を踏まえて慎重に検討すべきであり、有権者の感情を煽って公民投票にかけるのも禁じ手だ。
日本であれば、多くの識者・専門家がこのように考えるだろう。いずれも請求の活動をするのは市民団体であるが、政党が動かずには成立しない。両党とも相手に打撃を与えようと必死で禁じ手を打ちかねない状況だ。
頼総統による中華民国強調の影響は?
頼氏は民主化した中華民国の現状を守るという蔡英文路線を引き継いだ。「中華民国と中華人民共和国は相互に隷属しない」と繰り返し述べている。一方、強気の姿勢から変化球も投げる頼氏のカラーも見える。
中国が頼氏を「独立派」と決めつけているので日米の一部に頼氏が台湾独立に向けた動きをするのではないかという見方があったが、頼氏は逆に従来の台湾独立派が打倒すべき対象としていた中華民国を強調する動きを見せている。昨年10月の国慶節関連演説では「中華民国祖国論」という変化球を見せた。
これは国民党の拠り所である中華民国を民進党が抱き込む議論で台湾世論の支持が大きい現状維持に沿って民進党の支持基盤を広げようとする政権戦略である。中国は頼氏の中華民国シフトに対しても「台湾独立の動きだ」として中華民国の国家性を全面否定。それは国民党の議論の空間を狭めることになる。与野党のイデオロギーの陣地争いも注目しておきたい。
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