リメイクした価値は是枝監督の演出のもと、制作クオリティからも感じることができます。
是枝映画『海街diary』(2015年)を担当した瀧本幹也が撮影し、35ミリフィルムで撮影した映像の中で、赤いワインや赤の口紅、赤い毛糸玉、ボクシングのグローブなど赤の色彩を意図的に印象づけています。ドラマ『カルテット』で注目されたピアノ・トリオ「fox capture plan」による音楽も世界観を作り出しています。
Netflixブランドの作品ということで、役者からスタッフまで揃いに揃った布陣に不思議はありませんが、実ははじめからNetflixで独占配信することを想定して作られたドラマではなかったのです。
「すべてが運命的に決まっていきました」と話す元TBS、現在フリーの八木康夫プロデューサーが企画したことで始まった話でした。TBS時代の代表作は「うちの子にかぎって…」(TBS/1984~1987年)や「おやじの背中」(同/2014年)など。2018年に退社して70歳を過ぎた現在も「団地のふたり」(NHK/2024年)などホームドラマを作り続ける人物です。
是枝監督が他の人には撮らせたくなかったドラマ
どのメディアで実現するのか不確かだった構想段階の5年前、八木プロデューサーがふと思い浮かんだキャストが宮沢、尾野、蒼井、広瀬の4人の女優だったそうです。
とはいえ、どの企画においてもイメージ通りに事が運ぶとは限りません。オファーの仕方も肝になります。「俳優はいい意味で互いにライバル意識を持っているものです。四姉妹のうち、どなたかを先に決めて進める方法は違うと思いました」。
そこで考えたのは、ほぼ同時に4人全員に声をかけるというやり方。そのうえでそれぞれに顔ぶれを話すと、4人共に「実現したら素晴らしいですね」という二つ返事だったことを明かしてくれました。
「うれしかったですね。やっぱりね。今までのいろいろな作品の中でも本当に珍しいぐらいキャスティングで苦労しませんでした」と振り返りながら、約半世紀のキャリアを持つ身でも思わず笑みがこぼれてしまうほどのようです。
かつてAD時代に「家族熱」(TBS/1978年)に携わったことで向田邦子本人と会い、「一人前になったら仕事をさせてもらう」という約束がこうした形でも果たすことができたことも大きいのかもしれません。
また是枝監督に話を持ち掛けると「この作品を他の人には撮らせたくない」とすぐさま言われたそうです。もともと是枝監督が「阿修羅のごとく」の台本でワークショップを行っていたことも快諾の理由にありました。
巡り合わせのように役が揃っていくなかで、聞けば最後のピースがNetflixでした。そのため一気見を意識して作られてはいません。実際に、見るのをやめずにはいられなくなるようなテンポ良く進むスピード感のある作品ではありません。もちろん一気見するかどうかは人それぞれですが、人間の機微に触れることができる大人のドラマはじっくり味わうのがオツなものです。
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