清少納言描く「平安の理想の男性像」と"現実の姿" 宮中の明け方の光景から恋愛模様が垣間見える
このような男性の態度だったら、女性も嫌な気分にはならず、うっとりとしながら男性の後姿を見送ることができる。「風情が格別だろう」と清少納言は記しています。
清少納言自身もこのシーンを執筆しながら、うっとりしていたかもしれません。しかし、清少納言が書き記したような態度を取る男性は少数派。たいていは、かっこよくスッと帰っていく男性たちではない、と清少納言は語ります。
何か突然、思い出したとでもいうように、さっと起き上がり、バタバタしながら、指貫の腰ひもを締める。着衣の袖を几帳面にたくし上げ、帯を固く結ぶ。そしてその場に座り、烏帽子の緒をキュッときつそうに結んで、烏帽子を被り直すのです。
枕元に置いていた扇や畳紙は、夜のうちにいつの間にか、辺りに散乱。しかし、部屋が暗いので、それらがどこにあるかわからない。男は「どこだ、どこだ」と、そこら辺を手で叩き回り、所持品を探します。やっとすべてを回収したと思ったら、今度は、一安心と扇を取り出し、パタパタとあおぎます。
懐紙をしまい込んでから「それではおいとましよう」と、ようやく男性は帰っていくのです。
確かに、冒頭に記した男性と比べたらスムーズさがないし、この男性には風情は感じられませんよね。
しかし、清少納言は後者の男性が大半だというのです。
二度寝をした女性のもとに不届き者も
さて、男性が去った女性の中には、上着を頭からかぶって、二度寝する者もいました。ところが、その女性の様子を御簾を開けてのぞいている不届き者もいたようです。
不届き者のその男性は、しばらく女性の寝姿を見ます。枕上には、広がったままの夏扇、几帳の辺りには、細かく切られた懐紙が散乱しています。
寝ていた女性も、誰かに見られている視線にいつしか気づきます。被っていた着物の中から、見上げてみると、男性が長押に寄りかかり、ニコニコしながら、座っているではありませんか。
顔を知らないわけではない、しかし、それほど仲がいいわけではない、その男性。女性は(悔しい。こんな姿を見られて……)と悔しがります。不届き者はそんな思いをつゆ知らず「これは、これは。未練一杯の朝寝ですね」などと声をかけてきます。男性は女性をからかっているのです。男性は簾の中に半分身を乗り出してきます。それに対して女性は「早く帰ってしまった人が憎らしいので」と答えます。
清少納言はこうしたシーンを描きながら、「風情のある、別に取り立てて書くようなやり取りではないが、言葉をかわす2人の態度は悪いものではない」とも記します。
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