2029年に最低賃金1500円は「余裕で可能」な根拠 最賃の引き上げは「宿泊・飲食、小売業」の問題

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たしかに、2029年までに1500円に引き上げれば、一部の中小企業は対応が難しいかもしれません。しかし、一部の企業ができないからといって、すべての中小企業で働く労働者の賃金を上げなくていいという理屈は成立しません(中小企業では、全労働者の7割が働いています)。

いちばん弱い企業が対応できないため、すべて一律に引き上げを止めるのは「賃金の護送船団方式」と言えます。しかし、護送船団方式では強い企業も成長できず、一部の企業のために賃金が上がらないと、労働者全員が貧困を強いられる理屈になります。人口減少が進む日本では、こうした理屈から卒業する必要があります。

「減税」より「所得を増やして手取りを増やす」政策

物価の上昇や社会保障の増加に対応するためには、本来、企業の生産性を上げ、賃金を上げて手取りを増やす経済政策が必要です。

しかし、減税を主張する政党が増え、「消費税を廃止し、社会保険料も下げる」といった声も聞かれます。

これでは根本的な解決にはなりません。低所得者が困っているのは、税金が高いからではなく、所得が低いからであり、税金をゼロにしても根本的な解決にはなりません。税金がゼロになった後、物価上昇が続けば、生活はまた苦しくなります。

よって、減税ではなく最低賃金の引き上げを含む賃金の向上が必要であり、その持続的な実現には生産性向上が不可欠です。

減税を主張する人は、日本は緊縮財政だから経済が成長しないといった間違った認識を理屈の基礎にしています。その間違いの根本は、一般会計だけを見て緊縮財政だと判断していることです。社会保障まで含めると、日本は緊縮財政ではなく、世界一の積極財政になっています。

もう1つの誤解は、財政出動をすることによって日本経済が成長するという考え方です。財政出動をして経済が成長するという理論は、失業率を下げて、生産を増やして、経済が成長するという理論です。しかし、人手不足の現状では財政出動しても生産が増えず、日本経済は成長しません。

減税政策よりも、経済成長の根幹を支える新しい業界を育成し、イノベーションを促進し、生産性を上げて賃金を上げることによって手取りを増やすことこそ、日本経済が目指すべき道です。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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