推し活をやりすぎる人が「無能」に陥るリスク 人々が同調して美しいのは、演奏とダンスだけ

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そうなることが、偶像それ自身と同じ無能になってしまうということなのだ。それは個々の人間の能力や生命力を殺すことになる。これはまさしく、人間として生きることの否定となる。だから、あの十戒の中に偶像崇拝の禁止が刻まれていたのである。

もし医師が偶像崇拝者だったら

1人の医師が偶像崇拝者だったらどうだろう。たとえば、その医師はヒポクラテスサンと名づけられた偶像をひそかに崇拝している。難しい手術や治療の前には、世界最高の医師ヒポクラテスサンに祈る。手術や治療があまりうまくいかなかった場合は、自分の祈りが足りなかったのではないかと疑い、次回からはもっと念入りに祈るようになっている。

さて、この医師は本当に医師なのだろうか。もはや、祈祷(きとう)師ではないのだろうか。自分の祈りが偶像に通じているかどうか気になるのだから。自分の施術への自信がだんだんと削(そ)がれていることは確かだ。だから、偶像崇拝が深くなるほどに医師としての能力の自信を失っていくことになる。

国家の規模で偶像崇拝をしている場合はもっと悲惨だ。

これを実際に経験したのが戦争時の日本だ。現人神(あらひとがみ)(天皇)をいただく神国日本には神が味方しているという偶像信仰を広め、必ず勝つはずだからと兵站(へいたん)、つまり戦闘員、兵器、食糧の補給をしなかったため、外地に送られた兵士たちの6割以上を飢餓(きが)で死亡させた。

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旗色が目に見えて悪くなると、空から敵戦艦めがけて自爆死するための爆装(ばくそう)航空機を編成し、それを「神風」特別攻撃隊と名づけた。

この神風とは、元寇(げんこう)の乱(1274、1281に起きたモンゴルと高麗の連合軍との戦い)のときに吹いて当時の日本軍に味方した強風のことだという。また、軍人精神注入棒と名づけられた木製バットのようなもので兵士を一発殴れば、運人の強い精神が注入されるとも信じられていた。

こういうふうに、みずからの力がもはや頼りにはならないと自覚しつつ、いざとなれば超越的な存在が非物理的な力で奇跡的に助けてくれるという考え方で現実を見てしまうのが、偶像崇拝者の特徴なのだ。

これは物語ではない。現実に今でも起きていることだ。

白取 春彦 作家

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しらとり はるひこ / Haruhiko Shiratori

1954年青森県生まれ。ベルリン自由大学にて哲学・宗教・文学を学ぶ。哲学と宗教に関して、明快で痛快な論評に定評があり、ベストセラー『超訳 ニーチェの言葉』(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)のほか、『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)、監修に『図解 「哲学」は図で考えると面白い』(青春出版社)など著書多数。

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