――また、体を治すだけでは、本質的な解決には至らないと。個々の意識や社会の構造が変わらないと難しいということですよね。
手術すれば回復するはずの癌患者さんも、実はその病に至るまでの人生には長い歴史や、心の重石があったりするから。外科医のみならず、心療内科の先生とチームを組んで治療にあたるのはもちろん、もっとじっくり問診する機会があればいいなと。カウンセラーさんや看護師さんの力も借りて、その人の体と心のことを丁寧に掘り下げていく。複雑な現代社会においてはますます必要なことだと思います。
キャリアのターニングポイントは体が教えてくれた
――高尾さん自身のライフキャリアについても聞かせてください。子どもの頃から医師という職業を志されたそうですが、産婦人科医を選んだのは?
いちばんは、その人の人生を長く見ていけるからです。診療は科によっては短期間で終わってしまうこともありますよね。麻酔科だと手術の前日と翌日しか会わないし、小児科も15歳まで。でも産婦人科医は、女性が生まれてからおばあちゃんになるまで、さまざまな相談が来る科です。研修医時代、それに気がついて、これは凄いことだなと思って選びました。
――その人の体や人生を長期間にわたってトータルで見たかったと。
そうしないと、わからないことや本質的に解決できないことはたくさんありますから。
――キャリアの転機についても聞かせてください。医師となってから初めは大学病院で経験を積まれて、12年前、大学を辞めて現在の病院に転職することを決断されています。ここは大きなターニングポイントでしょうか。
言われてみればそうですね。転職の理由はシンプルで、夜中のお産を担当しなくてもいい働き方を選んだんです。30代前半までは徹夜で働いても余裕がありましたが、年々、日中の集中力が落ちているのを実感して。でも、大学病院にいる限り当直は免れません。当時は今よりも大学を辞めにくい空気でしたが、教授が変わったタイミングで辞めました。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら