ハン・ガンを世界的作家の地位に押し上げた小説『菜食主義者』(2007年)の一節だ。主人公「ヨンヘ」は家父長的暴力と抑圧から抜け出し、植物への変身を熱望する人物だ。
前述の一文はヨンヘが見た夢を描写したものだ。ハン・ガンは小説で活字のイタリック体を多く使用するのだが、これが本格的に活用され始めたのも「菜食主義者」からだ。人間の苦痛と病とは、結局、何かしらの暴力の結果であろう。ハン・ガンはそんな暴力のイメージを詩的な文章で巧みに描き出した。ならば、暴力はいかに再現されるのか。ハン・ガンは内面で歴史に目を向ける。
暴力の中での果てしない愛を描く
今回、スウェーデン・アカデミーの審査評でも重要な要素として言及された作品『少年が来る』(2014年)の一場面だ。
1980年の光州民主化運動(光州事件)の問題を正面から扱ったこの小説は、『菜食主義者』とともにハン・ガンを代表する作品でもある。
イタリアの権威ある文学賞「マラパルテ賞」、スペインのサンクレメンテ文学賞を受賞し、アイルランドのダブリン文学賞、ドイツのリベラトゥール賞の候補に上がるなど、ハン・ガンの小説の中で国際的に最もよく知られた作品でもある。一部ではハン・ガンの「真の代表作」とも評価される小説だ。
『別れを告げない』(2021年)の一説である。もう一つの韓国現代史の悲劇である1948年の済州島4・3事件で再び歴史問題を喚起したハン・ガンは、おぞましい暴力の中でも果てしない愛の物語を描き出した。