中国で「沖縄特区」論、強まる沖縄への不穏な動き 日本政府と沖縄の離間が狙い?不毛な沖縄認識

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同じ会議では楊伯江氏も2024年が琉球処分、すなわち「日本が琉球を暴力的に強奪(中国語では強占)してから145周年」にあたると指摘。沖縄が「軍事対抗の前線となるリスクが日増しに高まっている」現状に対し、「平和協力のハブとなり、軍事対抗の前線にならないこと」、さらには「『人類運命共同体』の理念に基づく東アジア地域の融合のなかで取って代わることのできない独自の役割を発揮する」よう求めた。

楊氏は、2023年に北京大学歴史学部などが主催して開かれた「第4回琉球・沖縄先端学術国際シンポジウム」でも、台湾有事を日本の危機と警告した故・安倍晋三元首相や麻生太郎・自由民主党副総裁(当時)らの発言に言及。自衛隊の南西シフトを島嶼部の「軍事要塞化」として、「中国に対する直接的かつ重大な脅威」であると批判している。

沖縄での親中世論形成のための統一戦線工作

主催者である中国側の狙いは、自衛隊と在日米軍による対中抑止能力向上への牽制と阻止のほか、中国の影響圏内への沖縄の政治的取り込みにある。シンポジウムの名称が「沖縄」ではなく「琉球」の呼称をことさらに強調しているのも、日本政府と沖縄県との政治的離間を目的とした、沖縄における親中世論形成のための統一戦線工作の意志の表れだろう。

なお、前出の2024年5月の会議には、後述する蔣立峰氏をはじめとした中国の日本研究者など日中両国の専門家が多数参加した。だが、中国側の報道によれば、日本側の出席者のなかに現代中国の政治・外交・安全保障を専門とする者の名前は一人もいない。会議の席上、沖縄県の尖閣諸島の領有権に関する議論がなされた形跡も伝えられていない。

蔣立峰氏(79歳)は、2001年から2008年まで中国社会科学院日本研究所の所長を務め、現在も同研究所研究員の地位にある。中国における日本研究を代表する人物だ。その蔣氏が2023年11月と2024年9月の2回に分けて発表した「琉球・沖縄地位補論」と題する論文は、前述した2013年の『人民日報』論文の発表以来、今日まで習近平政権の過去十年余りの間に、沖縄帰属問題をめぐって中国国内でなされた議論のひとつの総括といえる。

蔣氏は本論文で琉球の古代史から沖縄の近現代史までを概観。沖縄現代史では1972年の沖縄返還から今日に至るまでの反米軍基地運動の歴史や沖縄県民の自己認識、沖縄人・日本人としてのアイデンティティ状況などについて、沖縄メディアの世論調査などの結果から自らの見解を表明している。文中では、沖縄独立の政治目標を掲げる日本国内の民間団体や識者の主張も紹介している。

さらに、その結論部分で蔣氏は、台湾有事防止のための日本の防衛力強化の措置について、「ひとたび『有事』となった場合、琉球が真っ先に戦場になってしまう可能性が必然的にますます大きくなっていく」ことを指摘し、日本政府が「現状を絶えず悪い方向へと変えており、これこそまさに琉球・沖縄人民が直面する最大の危険である」という。そのうえで蔣氏は、沖縄のあるべき将来像として「特別区」の創設を主張し、次のように論じる。

現状の変更に関し、良い方向のそれとは次のとおりである。日本政府は、琉球・沖縄人民の人権向上の要求を重視、かつ積極的に応答すべきで、琉球諸島の有する特殊な歴史的背景と現実的環境に鑑み、自治の意義をもつ特別区を設立し、計画を策定して、米軍の軍事基地を逐次減らし、日本にとっての軍事安全保障の役割から平和促進の役割へと琉球諸島を変えることである。
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