ノーベル賞の候補に?「やせ薬」開発者3人の功績 発表は7日、前哨戦とされる「ラスカー賞」を受賞

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これ以外の役割としては、胃の内容物の排出を遅らせて満腹感を持続させる、中枢神経に働きかけて食欲を減退させる、といったものがある。これらのことから、GLP-1は「やせ薬」としても注目されてきた。

ハベナー氏は内分泌学を専門とする医師で、1980年代にGLP-1を発見した。GLP-1やGLP-2など、血糖のコントロールにつながるインクレチン(消化管ホルモン)の役割を解明したことで、世界から高く評価された。

同氏はラスカー賞の受賞のほかにも、2020年にはアメリカ科学アカデミーに選出され、2021年にはカナダのガードナー国際賞を受賞していた。ラスカー賞受賞で、10月7日に発表されるノーベル生理学・医学賞の有力候補となったと考える専門家が多い。

GLP-1研究を実質的に牽引した女性

モイソフ氏の経歴はハベナー氏とは対照的だ。

彼女は旧ユーゴスラビア生まれの生化学者だ。地元で物理化学の学士号を取得後、1972年にロックフェラー大学に入学し、ペプチド合成を研究した。その後、マサチューセッツ総合病院に移籍し、ハベナー氏と共同研究を始める。

GLP-1のアミノ酸配列を特定し、GLP-1がラットの膵臓からインスリン分泌をうながすことを実証したのは、彼女だ。GLP-1研究を実質的に牽引したといっていい。

実は、この研究実績はハベナー氏によるものとされ、モイソフ氏は当初、評価されなかった。ハーバード大学のエリート医師と、ユーゴスラビア移民の基礎研究者ということで、差別が影響していたのかもしれない。

このことについては、「オゼンピック革命はスベトラナ・モイソフの作品に根ざしているが、彼女は物語から排除されている」など、医学界の体質を批判する声も強い。ちなみに、オゼンピックとは、GLP-1の分泌を促す薬の商品名のことだ。一般名はセマグルチドという。

3人目のクヌーセン氏の役割は創薬、つまり薬の実用化を担った。

GLP-1を薬にするには困難を極めた。それは物質が生理学的に不安定で、体内ですぐに分解されてしまうからだ。このままでは薬として使えない。このことを克服したのがクヌーセン氏だ。

あまりに専門的になるため本稿では詳述しないが、GLP-1に脂肪酸を結合させるなどして、体内で安定化するよう工夫を施した。

彼女はデンマークの大学を卒業した化学者だ。卒業後、地元のノボ・ノルディクスに就職し、企業内の研究者としてキャリアを積んだ。2009年にアメリカの食品医薬品局(FDA)から承認されたリラグルチド(商品名:ビクトーザ)の開発は、彼女が主導したとされている。

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