僕が覚えた「足裏もみ」が大人になって役立った話 燃え殻「風呂場で思い出すのは若き日の父の姿」

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ワゴン車四台にわかれて、次のロケ場所まで移動する。僕の乗ったワゴン車には、とある国民的女優が乗っていた。彼女もさすがに疲れているようで、大きなあくびをしている。マネージャーが、彼女に目薬を渡したり、温かいお茶を飲ませたりしていたが、そのマネージャーすらウトウト眠ってしまった。すると、彼女が僕に話しかけてきた。

「この間、手相みてもらったら最悪だったんですよ。仕事運が今年の終わりからガタ落ちらしくて……」

「いや、これからは絶対忙しいですよ。来年も再来年も」

僕はヨイショではなく、本音でそう返した。「手相とかみれます?」

彼女は僕にそう聞いてくる。

足裏マッサージだけは…

手を握れるチャンスが突然降って湧いた。しかしこちらも過労で、フラフラの状態だ。手を握るよりも、「とにかく休みたい」が勝ってしまう。

「いやあ、手相はまったくわからないです。昔、足裏マッサージだけは祖母に仕込まれましたけど……」と、会話を終わらせるために僕はそう答えた。するとその某国民的女優が意外にも乗ってくる。

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「えっ! そうなんですか?」彼女はそう言いながら、もうスニーカーを脱ぎ始め、靴下もスルスル脱いで、僕の太ももの上に素足をポンと置いてきた。

「足の裏、揉み合いっこしましょうよ」

彼女は国民的スマイルでそう言う。周りのスタッフは、仮死状態のように眠っている。目的地までは、あと一時間とちょっとはあった。僕は彼女の足裏をとにかくグイグイ揉み、彼女もまた僕の足裏をグイグイと揉んでくれた。揉むたびに、「うっ! きもちいい」と国民的に正しいかは甚だ疑問なリアクションが、彼女の口から漏れる。祖母があの頃言っていた通りだった。足裏マッサージがうまいと、良いことがあった。僕はグイグイと彼女の足の裏を揉みながら、亡き祖母に最大限の感謝をしていた。

燃え殻 作家

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もえがら / Moegara

1973年、神奈川県横浜市生まれ。小説家、エッセイスト。2017年、『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説デビュー。著書に『これはただの夏』『愛と忘却の日々』などがある。

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