僕が覚えた「足裏もみ」が大人になって役立った話 燃え殻「風呂場で思い出すのは若き日の父の姿」

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風呂場から出て、タオルでしっかり拭いて、いつも通り缶チューハイを取りにいく。そのとき、出来心で父にメールを送ろうと思って、スマートフォンを手に取った。そこで初めて、父のアドレスを知らないことに気づく。えもいわれぬ申し訳なさが、心を締めつける。今度の休み、父の好きなあんみつでも持って、実家に帰ろうと思う。そのとき、アドレスを聞くかどうかは、まだ決めていない。

「ちょっとこっちおいで」と祖母に呼ばれる。

それは小学校低学年の夏休みのことだった。家族で、父がたの実家に里帰りをした晩の出来事だ。一杯飲み屋をやっていた祖母が、店を閉めてひと段落したあと、日本酒の熱燗を呑みながら、赤ら顔で僕を呼んだ。着物の上に白い割烹着を着た祖母は、いつになく上機嫌だった。祖母は突然、僕の左足を引っ張ると、足の裏を揉み始めた。僕はなにが始まったのかわからなかったが、とにかく、くすぐったくてゲラゲラ笑いながら、一生懸命逃げようとした。

「疲れが取れるだろ?」祖母が揉みながら聞いてくる。

「全然疲れてないよ!」

くすぐったさをこらえながら僕はそう答えた。

そりゃそうだ。こっちは小学校の低学年だ。五十を越えたいまの僕なら、隙あらば「足裏マッサージに行かせてくれ」とあらゆるスタッフに懇願するが、当時は足がだるいという感覚すらなかった気がする。そしてしばらく僕の足の裏を揉んでいた祖母が、「はい、じゃあ交代」と言って、自分が履いていた足袋を脱いで、僕のほうに両足を放り投げた。

なんてことはない、立ち仕事で疲れた祖母が、孫に足を揉んでほしくて、最初にデモンストレーションを見せてくれただけだった。そこからかなりの長い時間、祖母の足の裏を僕は揉まされる。最後のほうは、「もっと土踏まずを強く押して。足裏マッサージがうまいと、良いことがあるんだから」となんの根拠もないことを祖母は確信を持って、あの頃よく言っていた。

足の裏、揉み合いっこしましょう

テレビ番組のロケ仕事をしていたときのことだ。集合時間、午前四時。場所は新宿西口。前の日のロケは午前一時までやっていた。そのロケの解散した場所は新宿西口だった。つまり、ただの三時間休憩だった。スタッフは全員、漫画喫茶や車中で仮眠を取って、再度、新宿西口に集合した。

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