もちろん、こうした動きには日本も深く組み込まれている。
花粉症などでなじみ深いアレルギー性鼻炎を例にとれば、2019年度時点で国内では年間で保険診療の診察等に約1900億円、保険適用の内服薬に約1700億円、2022年時点で市販薬に約400億円が費やされている(2023年5月30日、花粉症に関する関係閣僚会議)。
一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「花粉症重症化ゼロ作戦」プロジェクトによれば、スギ花粉症患者の約70%は重症あるいは最重症と考えられ、花粉症によって生じた能率低下の費用損失は、心臓疾患、喘息、糖尿病などの病気よりも高額であるという。
身近であるがゆえに軽視されがちなアレルギー
古くは古代のエジプトやギリシャにもそれとおぼしき記録が残され、現代では人口の3人に1人が患っているとされるアレルギー。現在、世界中で数十億人の人々が何らかのアレルギーと共に生きており、その数はここ10年ほどで増加の一途を辿っている。
だが、命を落とす患者の数はさほど多くないがゆえに、社会全体でのアレルギーに対する問題意識は低いままにとどまっている。
例えば、マクフェイル氏の父は蜂毒へのアナフィラキシー反応によって命を落としたが、こうした虫刺されによる死亡例は極めて珍しい。
『アレルギー』に引用されている調査結果によれば、ここ20年ほどの間に昆虫に刺されて亡くなったアメリカ人は、平均して年にわずか60人強。これは、アメリカの国内総人口の0.00002%にすぎない。
マクフェイル氏自身の言葉を借りれば、彼女の父の死は「外れ値」であり、「不幸な事故」であった。しかし、彼の友人と親族にとっては、紛れもなく人生を変える出来事だったのである。
実は、マクフェイル氏の父は生前に自分の蜂毒アレルギーのことを知っており、緊急用の自己注射薬であるエピペンの処方箋を医師から渡されてもいた。
だが、当時の自身の医療保険ではこの薬の費用(数百ドル)が全額自己負担とされたこと(アメリカでは加入している保険の種類により保険の適用範囲や自己負担額が大きく異なる)などから、薬局でエピペンの処方を受けることはせず、蜂に刺された際には市販の抗ヒスタミン剤を飲んでやり過ごしていたという。
また、マクフェイル氏の母方の叔母も、やはり蜂毒へのアレルギー反応で救急治療室に運ばれた経験がありながら、その後もエピペンではなく市販の抗ヒスタミン剤を持ち歩いていた。
これらはいずれも、マクフェイル氏が著書『アレルギー』のための調査を行う中で初めて判明した事実だった。
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