医療人類学者が警告「アレルギー」途方もない負担 「軽視してはいけない」アレルギーへの対処法

✎ 1〜 ✎ 5 ✎ 6 ✎ 7 ✎ 8
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

彼女が取材した患者、臨床医、研究者たちの言葉や、実施した大規模な研究調査の結果からも、身近であるがゆえにアレルギーを軽視しがちな私たちの姿勢と、そこからもたらされる危険が描き出されている。自己判断による市販薬のむやみな使用や、裏づけの乏しい自宅用検査キットの氾濫も、その一環といえるだろう。

重荷を抱えて生きる患者が見通す未来

医療人類学者であり、自身もアレルギー患者であるマクフェイル氏は、著書『アレルギー』の中で読者にこう語りかける。

「アレルギーを発症している人の生活の質(QOL)は、そうでない人に比べて一般的に低い。不安とストレスのレベルはより高く、より頻繁に倦怠感を覚える。集中力とエネルギーレベルは下がる。もしかしたら、この本を読んでいるあなたもアレルギーの持ち主で、その感覚を既に知っているかもしれない」(6ページより)
『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』書影
『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

特定の場や物質を避けなければならない煩わしさ。いつどこで発作の引き金が引かれるかわからない恐怖。

アレルゲンや症状、重症度は異なれど、これらはアレルギーを抱える人々に共通の感覚ではないだろうか。

「アレルギーに苦しむ人々の大半は、調子が『とても良い』状態を期待することはやめてしまい、調子が『悪くはない』状態で人生の大部分の日々を過ごせればそれでいいと妥協している」とマクフェイル氏は言う。

『アレルギー』は、21世紀におけるアレルギー問題の背景を探るマクフェイル氏の、個人的でありかつ科学的な旅路の記録だ。

「アレルギーに苦しむ人々は、アレルギーのない人々にはしばしば見えていないような事実を知っている。私たちの体は絶えず、身の回りの空間と物体を構成する何十億もの見えない粒子、微生物、化学物質、タンパク質とぶつかり合っているという事実を」(6~7ページより)

食物アレルギー、皮膚アレルギー、昆虫アレルギー、薬品アレルギー、呼吸器アレルギー……マクフェイル氏が取り上げるアレルギーは多種多様だ。だが、それらには皆、社会構造とライフスタイルの急激な変化という共通の要因が関わっている。

変わりゆく世界の中で、私たちはアレルギーと共にどう生きていくのか? 本書には起こりうる未来の姿が描かれている。

坪子 理美 英日翻訳者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

つぼこ さとみ / Satomi Tsuboko

英日翻訳者。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了。

訳書に『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』(東洋経済新報社)、『悪魔の細菌:超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い』『カリコ博士のノーベル賞物語』(中央公論新社)、『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち:『白鯨』でひもとく海の自然史』『なぜ科学はストーリーを必要としているのか:ハリウッドに学んだ伝える技術』(慶應義塾大学出版会)、『CRISPR〈クリスパー〉ってなんだろう?:14歳からわかる遺伝子編集の倫理』(化学同人)など。

共著書に『遺伝子命名物語:名前に秘められた生物学のドラマ』(中公新書ラクレ、石井健一との共著)、寄稿書に『アカデミアを離れてみたら:博士、道なき道をゆく』(岩波書店)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事