働き盛りがなぜ死を選ぶのか 岡田尊司著
日本の自殺者は、13年連続で3万人を越えている。 この13年間だけで40万人以上の人間が自殺によって人生を終えたのである。太平洋戦争での空襲(原子爆弾を含む)による民間人の死者50万人にも迫る数字だ。当然のことながらこれ以上犠牲者を出すわけにはいかない。
特に40代後半~50代前半の男性の自殺が非常に多い。日本を支える働き盛りの世代が自ら命を絶つという異常事態が、なぜこんなにも長く続いているのか。精神科医である著者は、その原因を10年にも渡る「長期デフレ」にあると断定し、自殺者3万人のうち約3分の1は資産デフレや賃金デフレによる“デフレ自殺”だろうと分析する。
そもそも著者は、精神科医として自殺を取り巻く背景を調べていたのであって、専門外である経済問題に言及する気はなかった。だが、中高年の自殺の主な原因は経済・雇用・問題だ。それらがデフレと密接に関わっている以上、経済問題に踏み込まざるを得ず、本書でその処方箋を示すに至ったという。
本書ではまず、バブル崩壊以降、度重なる経済失政がこの長期デフレをもたらしたことを始め、デフレが続く理由について、様々な経済データを盛り込みながら順を追って丁寧に検証している。
そして、中高年のうつ病や自殺を減らすためにはデフレ脱却が急務であり、政府と日銀が足並みをそろえ、インフレに誘導するような大胆な政策を実行することが重要だと主張する。適度にインフレに傾けば、物価が上がるとはいえ賃金が上昇して消費も増え、自殺原因となっている経済・雇用・勤務問題は改善に向かう。実際、インフレ政策によって失業率を下げ、デフレから速やかに回復を成し遂げたスウェーデンの事例などは興味深い。
経済は、人々の気持ちで動くところが大きい。デフレ状態は精神面にも影響を及ぼし、人々の心や未来に対する希望までも収縮させてしまうと著者は見る。