ただ、ドラマはこれでは終わらなかった。テレビ桟敷での国民も含め、大逆転を予感させたのは決選投票に先立つ1人5分間の「演説」だった。選挙管理委員会が直前に決めたもので、同委はその間の議員同士の情報交換や多数派工作防止のため、「スマホ禁止令」を出し、場内をざわめかせた。
そのうえで、まず2位の石破氏が演説、簡潔な表現ながら力強く支持を訴えて大きな拍手を受けた。これに対し、高市氏のあいさつは、「さて」「さて」と言葉をつなぐだけで中身も迫力も乏しく、しかも時間切れを指摘されて“尻切れとんぼ”となる失態もさらした。
「決選投票」での大逆転に岸田、麻生両氏の表情も一変
一方、「決選投票」前は、最前列の総裁経験者らが並ぶ特別席で余裕の笑顔の麻生氏に対し、岸田氏は不安そうな落ち着かない表情だった。しかし、各議員や都道府県連代表の投票などが終わり、選挙管理委員の見守る中、事務局による開票作業が進むと、高市陣営とみられる女性管理委員が涙ぐむなど、「大逆転」の雰囲気が会場にも伝わり、石破、高市両陣営の態度と、麻生、岸田両氏の表情も一変した。
そして迎えたのが開票結果の発表。逢沢一郎選管委員長が事務局に手渡された紙をみながら「高市候補194票」と読み上げた瞬間、高市氏の顔が強張り、続いて「石破候補215票」と読み上げると、石破氏はいったん顔を伏せ、メガネを外して涙を拭ったうえで立ち上がり、場内の祝福の拍手に控え目の笑顔で感謝の意を表した。この大団円の瞬間には、会場内のほとんどの議員達が喜び、あるいは落胆だけでなく、多くが割り切れない表情で周囲を見回すという、過去の総裁選では見られなかった光景が、生中継のテレビ画面にも生々しさを伴って、映し出された。
こうした約1カ月半にわたった「総裁選劇場」の盛り上がりと、劇的だった石破新総裁の誕生を受け、各種世論調査での内閣と自民党の支持率上昇は確実視され、それが「電撃解散断行につながった」(自民長老)のは間違いない。ただ、「党・内閣人事での『石破支持議員偏重』が際立ったことでの党内分断」(同)も目立ち始めている。
これに対し野党側は「そもそも、裏金事件への国民の厳しい評価は、総裁が代わっても変わらない」(立憲民主幹部)と攻勢を強めており、次期衆院選で「日本をもう1度、みんなが笑顔で暮らせる安全で安心な国にする」と訴える石破首相にどのような審判が下るかは、「新政権に対する1億有権者の評価次第」(政治ジャーナリスト)であることだけは間違いない。
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