JR九州上場と新国立競技場問題を考える 国民の税金を勝手に使わせてはならない

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このようなことがまかり通るということ自体、私はとてもおかしなことだと思います。少し前に話題になった新国立競技場の問題を耳にした時、私はJR九州の基金の話と重なりました。

無数にある「既得権益」を見逃すな

皆さんもご存じの通り、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて建設が予定されていた新国立競技場の建設計画が白紙になりました。総工費が、当初予算の1300億円から2520億円まで膨れあがったことが指摘されたからです。実際に建設していたら、3000億円にまで膨らむとの指摘もあります。

この際、森喜朗氏が「国がたった2500億円も出せなかったのか」とコメントしたことが話題になりました。この発言は、まさに問題の核心を突いています。

どういうことかと言いますと、この2500億円という金額は、日本の国家予算96兆3420億円のうちの「たった」0.3%です。JR九州の基金3877億円も、同様に0.4%程度です。一般の国民にとっては非常に大きな金額ですが、予算を考える国会議員や役人にとっては、小さな金額でしかありません。

ましてや「他人の」おカネです。はっきり言って細かい話ですので、彼らも把握しきれないところがあるのです。JR九州の件は、そもそも、バランスシートの概念もありませんから、問題そのものの本質も理解できていないかもしれません。

税金を九州の利権にばらまいていいのか

しかし、政府全体から見れば、割合としては小さくとも、同じような既得権益にからむ問題は無数に存在しているのではないでしょうか。国家予算全体での、残りの99%に関わることでも、このようなことはたくさんあるのではないでしょうか。しかし、このようなことが許されていたら、国の経済や秩序はおかしくなるでしょう。JR九州の上場益も、本来であれば財務省に入る予定だったものですが、今のところ、長崎をはじめとする整備新幹線に使われる可能性があります。つまり、利権の食いものに使われるわけです。

繰り返しになりますが、基金の原資は国民の税金です。JR九州は、3877億円の国民への返済を踏み倒した上に、九州の利権にばらまくのです。こんなことが許されていいのでしょうか。

しかも、同社の利益率は数%しかありません。この収益力の低さを、この先20年ほどの新幹線の賃料を前払いすることで利益をかさ上げし、ある意味「誤魔化して」いくわけです。ほかの事業を拡大していこうとしているとはいえ、鉄道事業の本質的な赤字体質は今後もずっと続いていきますからね。もらったおカネで赤字を補塡するわけですが、この分、国民が損をしているわけです。預けていたおカネをあげてしまうわけですから。

上場自体は悪いことではありませんが、国民の税金が原資の資金をもらってしまい、利益のかさ上げをすることは許されるのか、という点に、私は大きな疑問を感じます。

国民から広く浅く集めて、利権者に配られるという話は、国全体から見ると小さな話ですので、残念ながら関心を持っている人が多くないのが実状です。しかし、私たちはそれを貪る者がいることをきちんと認識しておく必要があります。

JR九州の基金の話や、新国立競技場の問題などのように、国家財政自体から見れば小さな話ですが、大きな矛盾をはらんだ問題がたくさんあるということを、私たちは知っておかなければならないのです。そして、このような矛盾が財政全体でも起こっていないことを心から願うばかりです。

小宮 一慶 経営コンサルタント

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こみやかずよし / Kazuyoshi Komiya

小宮コンサルタンツ代表取締役CEO。大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行う。著書に『「なれる最高の自分」になる方法』『ビジネスマンのための「習慣力」養成講座』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、『株式投資で勝つための指標が1冊でわかる本』(PHPビジネス新書)など。

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