氷衛星の地下、液体を湛える海に生命はいるのか 「地球外生命」探査の最前線に迫る
下の画像にあるように、EELSは氷の上を這い、適した穴の入り口を見つけ、中に入って降りていく。エンケラドスの重力は地球の60分の1しかないため落ちることはあまり心配しなくてよいのだが、高速で噴出するジェットに吹き飛ばされないようにしなくてはいけない。
そこで、忍者が壁と壁の狭い隙間を両手と両足を突っ張って昇り降りするように、ヘビのボディーを両側の壁に突っ張り、ジェットからの力に逆らいながら降下していく。
この想像を実現する第一歩として、僕たちは実際にEELSのプロトタイプを試作し、エンケラドスに似ている地球上の環境でテストを重ねた。最初の試験は、JPLから車で10分のパサデナの街中にあるスケートリンクだった。夜10時から朝5時までリンクを貸し切り、EELSが平らな氷の上を難なく走行できることを確認した。
次に実施したのは雪山での試験だ。車で3時間ほどの場所にあるスキー・リゾートの厚意でゲレンデの一角を貸してもらい、雪で覆われた斜面や起伏のある表面でのテストをした。また、JPLが山の中に所有する天文台の敷地でも雪上の試験を行った。EELSは傾斜35度もの雪で覆われた斜面を登ることに成功した。
雪のない季節はJPL内のマーズ・ヤードで繰り返し試験をした。エンケラドスに砂や岩はなかろうが、幅広い環境で稼働することを確認できれば、何があるかわからない未知の場所にも適応できる可能性が高まる。
力覚の重要性
僕たちが気づいたのは、力覚の重要性だ。たとえば人間は歩く時、足の裏が地面から受ける力を感じ取り、無意識のうちにその情報を使ってバランスを取っている。これを専門用語で力覚フィードバック制御という。
たとえば、あなたは目を閉じても凸凹道を転ばずに歩ける。脳が無意識のうちに力覚フィードバック制御を使って手脚を動かしているからだ。逆にもし力覚がなければ、目が見えていても安定して歩くことは困難だろう。
EELSの最初のプロトタイプは力覚を持っていなかった。それが複雑な地形での移動や垂直移動を困難にしていた。そこで僕たちは、EELSの各モジュールに力とトルクを感知するセンサーを挟むことにした。プロジェクトのスケジュールに間に合わせるため、Hebiという会社が市販しているアクチュエーターを使った仮のロボットを作った。
内輪でHebi EELSと呼んだこのロボットは、ヘビの真ん中を省いて電子機器を乗せた箱を設置したので、ヘビというより2本脚のクモのような形になったが、基本的構造はEELSと同じである。
このHebi EELS ロボットを用いて挑んだのが、プロジェクトの本丸、垂直方向の移動だった。最初はJPL内にある6畳ほどの広さの冷凍庫に垂直の氷の壁を作って試験したが、もっと現実に近い環境でテストする必要があった。そこで僕たちが選んだ最終テストの場所が、カナダのジャスパー国立公園にあるアサバスカ氷河だった。
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