少年隊・東山紀之の自叙伝は何がすごいのか 原点を見つめなおし、新しい地平を開く
NHK大河ドラマ「琉球の風」に出演したときの思いが語られている章もすばらしい。
撮影隊を大歓迎してくれ、精一杯歓待してくれる沖縄の人々とのふれあいの中で、優しさの裏にある沖縄の底知れない悲しみを思う。現地入りするにあたり沖縄の歴史を学び、琉球三線と琉球舞踊を習った著者は、独立国家だった沖縄の、日本とも中国とも違う文化を全力で感じようとしている。
残念ながらドラマの視聴率は、大河ドラマとしては芳しくなかった。が、俳優として人間として、役割を全うした著者は言う。
こうしてひとつひとつ、仕事を積み重ねる著者は、数多くの名優たちとの出会いに恵まれている。登場する名は、著者との終生変わらぬ交流が有名な森光子はじめ、森繁久彌、藤田まこと、松方弘樹、萬屋錦之介、若山富三郎などなどそうそうたるものだ。みな、いつのまにか著者に惹きつけられて、教えよう伝えようとする。それぞれに個性的な向き合い方であり、これまた名優たちの声が聞こえてきそうで、読んでいて楽しい。なかでも山岡久乃のエピソードが面白い。
森光子主演の舞台「御いのち」の出演が決まった時、「森さんに恥をかかせるわけにはいきません。これから私があなたを鍛えます」と山岡さんが、自宅のマンションまでマンツーマンのレッスンに来てくれたというのである。「いまどきの若者」の「しゃべり方」や「立ち居ふるまい」では、天下の森光子の舞台には上げられないとばかりに、厳しいレッスンが週に3日、1カ月続いたそうだ。繰り返し繰り返しせりふを読み比べ、稽古が終わればさっと帰っていく。山岡さんもすごいが、「日本の母」と呼ばれた大ベテラン女優にそこまでしようと思わせた著者こそすごい!
「自分に正直に生きたい」
著者は40代を迎えたころから自分が生きてきた意味をしばしば考えるようになったのだそうだ。過去の記憶をたぐりよせ、自らの原点を見つめたくなったのは、「自分に正直に生きたいという気持ちの表れから」だという。若い時代をがむしゃらに駆け抜けて、気づいてみればいつのまにか「老い」も感じる歳になったとき、若いときとは違う地平でまたあらためてスタートラインに立ちたい、と思う気持ちには共感する。本書のいくつものエピソードを読んでいると「まだまだ歩んでいかなくては」という思いが湧くのである。
ところでこの文庫版では、「五年後に思う」というタイトルのあとがきが加筆された。
すでに連載や単行本を読んだ方にも、このあとがきはぜひ読んでほしい。
多くの人々の心に響く一文だと思う。
ヒガシも40代後半!「少年隊」の「カワサキ・キッド」と同世代の方々にはとくにおすすめである。振り返った記憶を、未来への力にできる! そんな気にさせてくれる一冊だ。
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