企業価値を50年間「略奪」してきた「真犯人」は誰か 「イノベーション衰退」「極端な所得格差」の要因

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ラゾニックとシンは、価値抽出のトライアングルともいうべき3種類の主体(インサイダー、イネーブラー、アウトサイダー)に着目し、略奪的価値抽出の詳細な分析を行っている。

価値抽出のインサイダーとは、自社株買いをうまく利用して株価をつり上げ、自らの株式型報酬(ストックオプションやストックアワード)による利益を増やそうとする企業経営者を言う。

こうした経営者の行動の背景には、「株主価値最大化」のためには経営者の利益と株主の利益を一致させる必要があり、したがって経営者の株式型報酬を増やすべきだという、マイケル・ジェンセンを祖とするエージェンシー理論研究者の主張がある。

ラゾニックとシンは、こうした価値抽出のインサイダーがどのようにして株式型報酬を増やし続けているのか、その構造を明らかにしている。

価値抽出のイネーブラー

1980年代に入るまで、アメリカでは、1929年の株式市場大暴落の反省を踏まえてニューディール期に整備された金融規制が維持されていた。ニューディール金融規制には、株主と企業の関係に関する次のような大原則があった。

すなわち、(1)インサイダー情報によって利益を得ることを含む「詐欺および欺瞞」を禁止する、(2)株主が集団で行動することを厳しく規制し、投資家カルテルの形成を禁止する、(3)機関投資家に、投資先の分散を奨励し、経営への影響力を行使させないようにする、の3つである。

ところが、新自由主義的な経済秩序への道を開いたロナルド・レーガンが大統領に就任して以降、価値抽出のイネーブラーの手によって、こうした伝統的な金融規制が次々と侵食された。

イネーブラー(enabler)とは、他者の成功や目的達成を後押しし、可能にする者を言う。価値抽出のイネーブラーには、大量の株式保有を背景に強大な力(議決権)を持つようになった年金基金やミューチュアルファンドなどの機関投資家、自社株買いの容認をはじめとする金融規制の緩和や制度変更を推し進めたアメリカ証券取引委員会(SEC)などの政府機関が含まれる。

また、機関投資家アクティビズムをイデオローグとして推し進め、後に「コーポレートガバナンスの概念の請負人」とまで評されるようになるロバート・モンクスも極めて重要な価値抽出のイネーブラーであった。

これらのイネーブラーの攻撃によって、ニューディール金融規制の大原則が完全に崩壊し、略奪的価値抽出のお膳立てが整ったのである。

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