企業価値を50年間「略奪」してきた「真犯人」は誰か 「イノベーション衰退」「極端な所得格差」の要因

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略奪的価値抽出を生み出したのは、「内部留保と再投資」から「削減と分配」へという企業の資源配分体制の変化であった。「内部留保と再投資」の体制の下では、経営者が企業の資源配分を決定し、利益と人材を社内に留保することで、競争力のある製品を生み出す生産能力に再投資することが可能であった。

ところが、1970年代から1980年代にかけて、これは「削減と分配」の体制に移行し、経営者は従業員や投資を削減し、企業利益を株主に優先的に分配するようになったのである。

こうした企業の資源配分体制の移行を正当化し、略奪的価値抽出を可能にしたのが、同時期に、主にビジネススクールを通じて流布され、企業は株主のために経営されるべきであるとする、「株主価値最大化」のイデオロギーであった。ラゾニックとシンは、それに基づく現在の株式市場やコーポレートガバナンスのあり方を多面的かつ緻密に分析し、「株主価値最大化」のイデオロギーを徹底的に批判する。

革新的企業の理論

その際、2人はラゾニックが構築した「革新的企業の理論」を分析の基礎に置いている。「革新的企業の理論」については第2章で詳述されているが、ここでは次の2点を指摘するにとどめておく。

1つ目は、「革新的企業の理論」が、市場における完全競争を理想とみなし、「株主価値最大化」のイデオロギーの基礎になっている、新古典派経済学の企業理論の大きな矛盾を指摘し、シュンペーターと同様にこれを全面否定している点である。

2つ目は、「革新的企業の理論」に関連して、政府による物的インフラや知識基盤への投資がイノベーションにとって極めて重要だとしている点である。また、一般通念に反して、アメリカが歴史上最も強力な発展指向型国家だったという見方を示していることも興味深い。これは、『企業家としての国家』などの著書で知られるマリアナ・マッツカートとも共通する認識である。

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