世界の工作機械メーカーは今後4分の1に収斂される、開発技術だけで製品バリューが決まる時代は終わった--森雅彦・森精機製作所社長
--日本のユーザーにDMGの機械は受け入れられていますか。
サービス次第です。過去においてDMGの機械はあまりサービスがよくなかったので、過去に苦い経験したお客さんはまだ半信半疑です。それでも、森精機がちゃんとサービスしてコツコツやっていけば、買おうかというお客さんはいらっしゃいます。月に20台くらい売れ始めたところです。まず使ってもらって1つひとつ丁寧に対応する。マジックは何もないですね。やると決めてコツコツとやっていれば、必ず成果は出ます。
--DMGの製品の中には、森精機の製品と重複するものもあるのでは。
重複しないようにしていくんです、これから。たとえばDMGは6000台作っているうち、3000台が同時5軸制御の機械。世界最大の同時5軸メーカーです。それだけ知恵もノウハウもいっぱいあるわけです。逆に横型のマシニングセンタ(工作機械の一種で、刃物を回転させて対象物を削る)などはうちが圧倒的に強い。だから、森精機の横型マシニングセンタをDMGの工場で作り、ドイツやヨーロッパのお客さんに売っていきます。
建設中の北米工場には、月に約80台を作れるキャパシティがありますが、そのうち約20台はDMGの機械を作る予定です。まず来年の7月ごろから森精機の機械を作り始め、来年の12月ごろからはDMGの機械も作ることになります。
■ITの活用で世界の工場をつなぐ
--EMO(欧州工作機械見本市、9月末にドイツ・ハノーバーで開催)はいかがでしたか。
EMOはよかったです。まず、お客さんに、(森精機とDMGが)いっしょにやるんだ、という強いメッセージを与えることができました。また、両社の社員も「一緒になるんだ、大きく、よくなるんだ」と、体感してくれた。それがよかったですね。
もちろん商談も活発でした。森精機で約180台、DMGで800台超、合計で1000台超の受注を獲得しました。
--両社には、生産においても販売においても、異なる部分が多いのではないでしょうか。
そこはお互い勉強し合うのです。たとえば、来年の春から3カ月置きに、DMGから30名の従業員が日本に来て、森精機で研修を受ける予定です。森精機も同じだけの従業員を向こうに出し、現場交流プログラムを始めます。「この機械のことならあの人に聞こう」という仕組みを作っていく。今はメールもあるしテレビ会議もあるので、いったん知り合うと、あとは関係を継続することがやりやすいですからね。フェース・トゥ・フェースで一緒に働く経験と、ITを使ったつながり。これを交互に繰り返して、工場の間の距離をできるだけ少なくしていく。
--部品1つを発注するにしても、森精機とDMGでは部品に付けている型番が違いますよね。協業するうえで、混乱はありませんか。
今後、共同設計の機械では型番を統一していきます。
今までの機械については、部品発注の体系が違うので、お互い突き合わせて共通の体系をどうするか、もしくはコンピュータで自動翻訳させるか。そういった取り組みをやっているところです。セールスのほうでも、見積もりシステムとか顧客管理の仕組みとか、独禁法に決められた手順に従って統合していく。サーバーは別に分けるけれども、インターフェースは同じようなデザインにするなどですね。
まるで銀行のようですが、製造、設計、発注、工程管理、見積もり、顧客管理など、(あらゆる面で)システムの統合がいちばん大切なところですね。
経理は意外と合体しやすいものですが、森精機とDMGでは細かな仕組みが違うので、こういったところも、将来どうしようかという問題があります。さらに、CADの統一も必要ですね。13年度までの3年間で200億円の設備投資を予定していますが、そのうち20億円はITの整備に投じる計画です。
--DMGとの共同開発機第1号として、「ミルタップ」(小型マシニングセンタ)を発売しました。どの市場を狙っていますか。
いわゆる自動車部品です。業界内では、スマートフォンや家電向けに小型マシニングセンタの受注が旺盛ですが、「ミルタップ」は家電向けにはヘビーすぎる機械です。小さくて硬い部品、たとえば自動車部品、オートバイの部品、建機の小さな部品を削る機械として開発しました。
--「ミルタップ」を共同開発した背景は?
お互いに持っていない機種だったからです。将来を考えると、車のEV化やHV化が進み、あの種類の機械が必要になる。だから一緒に作るのにちょうどいいか、と決まりました。開発期間は1年くらいです。ドイツのゼーバッハ工場で、両社から約5人ずつの技術者を出して取り組みました。
--生産はどこで行いますか?
当面は奈良です。それからゼーバッハと、DMGの上海工場。(業務提携交渉中の)瀋陽机床と交渉が進めば、中国仕様に位置決め精度を落としたものを瀋陽で作ります。