世界の工作機械メーカーは今後4分の1に収斂される、開発技術だけで製品バリューが決まる時代は終わった--森雅彦・森精機製作所社長
工作機械の受注額も、来年は20%くらい落ちるでしょう。3~4月ごろから、多くの社で受注が落ちると思う。来年の景気はあまりよくない。調整の年ですね。
ただ、リーマンショックのときのようなことはないと思います。何が起こるか、みんなそれなりに考えて動いていますから。それでも(調整期間は)2年くらいかかるでしょうね。
--現在はまだリーマンショックからの回復途上の側面があります。そこにまた調整局面がやってくる。しのぐことはできるでしょうか。
(世の中に)巨大な変化が起こっているわけです。「回復」の定義を変えなければならないと思います。前のピークまで戻ることを回復だと考えているとダメでしょう。
人口がこれだけ増えてきて、いかにみんなで食っていくのか、分配をどうするのかという議論をするわけです。どのようにみんなが納得するやり方で分け合うのか、という議論が、アメリカの大学をはじめ、世界中で起こっていますよね。
金融だけの経済刺激策は終わって、働く側もしっかり付加価値を作っていく。議論の論調も建設的なものに変えなければならない。日本はずっとデフレが続いているから、モチベーションもデフレで、お互いにけなし合うような論調です。そうでなくて、お互いに盛り上がれる議論が必要ではないでしょうか。
政治の世界でも、“ザ・デストロイヤー”のような人がはびこっている。商売だって、ザ・デストロイヤーが増えすぎました。破壊者が褒められる世界というのは正常じゃない。企業の経営者なら5年とか10年、政治家なら20年とか30年のスパンで何をつくりたいのか。そろそろ議論しないといかんと思います。
自動車ひとつとっても、本当にいろいろな種類の車があります。仮に、フォードアはこれだけ、ツードアはこれだけ、トラックはこれだけ、とやっていけば、車に関する生産設備は全世界で100分の1くらいで済んでしまうんです。かといって、それじゃぁ面白くないし、変化に対応できない。その適切な各製造業におけるボラティリティというか、流動性を考えねばなりません。
金融の世界でもそう。為替を例にとると、実取引の100倍くらいの流動性がある。だからバブルが生まれたりFX取引みたいなものがあったりする。一方で、流動性がゼロだったら、どこかで資金がショートして、おカネがないために死ぬ人も出てくるかもしれない。100倍はやりすぎかもしれないけれど、50倍がいいのか30倍がいいのか、そういう議論、考え方にもっていかなければならないと思います。
当社の経営も同じです。過去の10年は次々と新機種を開発してきた時代でした。だから、DMGで100機種以上、森精機で100機種以上、合計で200機種以上あるわけですね。これはどう考えても数十機種で済むわけです。その辺をどう共通化し、効率を上げるか。お客さんの側のサステナビリティを高めるのか、と考えます。
今、世の中全体でそういうことが起こっているのではないでしょうか。言ってみれば、過去10年間は戦争状態でした。象徴的なのが「9.11」。あれは前の世紀でいくと、欧州でのオーストリア帝国皇太子の暗殺事件(1914)か太平洋での真珠湾攻撃(1941)です。20世紀の半分くらいは戦争でした。その後1960年代、70年代くらいからしばらく平和が続いたけれども、また21世紀に入って最初の10年くらいは戦争の連続です。あと10年くらい続いて、20年戦争と呼ばれるかもしれない。
そういう状態に企業も個人も対応していかないといけないかな、と思いますね。
■技術だけでは製品価値を決められない
--森精機としてはどういう方向を目指しますか。
業界全体でいうと、日本で100社、ドイツで100社、全世界で400社の工作機械メーカーがあるとして、それらが100社くらいに収斂される。その過程で当社の商品も、わかりやすく統合していく。そういう作業がこれからの10年間に必要でしょうね。
製品点数をただ減らすのではなく、集約していきます。2台必要だったものを1台にするとか。1台で両方の性能を持たせるなどしていけばいいと思います。
もう1つは、技術の話です。過去10年儲かっている会社というのは、研究開発をあまりやっていなかった会社だと思います。現在、アジアで加工されているワーク(加工対象物)は1990年代に設計されたワークです。2000年になって日本やアメリカやドイツでやろうと思ったら、コストが合わなくなって、アジアに行ってやっているわけです。
だから、(アジアの加工業は)技術的には、決して新しいものではありません。生産設備も新しい生産設備ではない。今年作ったかもしれないけれど、オリジナルの設計は10年前とか15年前とかの設備なんです。でも、中国もこれだけ人件費が上がってくると、古い設備では折り合わなくなってしまいますよね。だから、過去10年栄えたメーカーが今後10年も栄えるか、というとそうでもないと思います。
今後栄えるのは、過去10年、研究開発や人の教育をやってきた会社です。