イーブイがこの現場を訪れたのは今年の夏が始まろうとしているときだった。家中を埋め尽くしている生ゴミのことを考えれば、暑くなる前に片付けたい。しかし、イーブイに依頼をすることもためらってしまった。
そもそも他人と会うこと自体が怖い心理状態である。動画で見たことのある顔とはいえ、他人を自分の家に入れるという行為に大きな抵抗を感じざるをえなかった。
心の問題が深刻な「生ゴミだらけ」のゴミ屋敷
見積もりのとき、母親の手は震えていたという。
「見積もりのときお母さんは泣かれていて。安心したんですかね。やっぱり悩んでいることを人に打ち明けるっていうだけで胸のつかえが取れてスッキリするじゃないですか。そういう姿を見ると何とかして助けたいという気持ちはありますよね」(信定さん)
「ゴミ屋敷」には大きく分けて2つの種類がある。
ひとつは服、雑貨、本などを溜め込みすぎてしまい不要品だらけになった「モノ屋敷」。この場合、片付けの際に「いる・いらない」を仕分けする必要がある。
もうひとつは今回のように生ゴミが大半を占める現場だ。後者は「ほとんどが住人のメンタルの不調に起因している」と文直氏は言う。
「前者と後者では、心に抱えている問題が違ってきます。より深刻なのは後者の生ゴミだらけのゴミ屋敷です。モノ屋敷のようにコツコツ片付けて解決するようなことではありません。片付け方とか、整理収納の仕方とか、掃除の仕方とか、ゴミ出しの仕方とか、そんなことじゃない。
“どうしてこうなった?”と原因を追求する前に、まずは家の中をゼロに戻して一気に気持ちを切り替えるしかありません。話はそこからだと思っています」
この状況が続くようでは、子どもに対するネグレクトを指摘されても否定することはできないだろう。ただ、母親はセルフネグレクト状態になりながらも、かろうじて「前に進みたい」という気持ちは持っていた。それは、やはり子どもの存在が大きかった。
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