ただ、ゴミの量だけならこの家に匹敵する現場はいくらでもある。しかし、ほかの現場と一線を画していたのはゴキブリの量だった。というのも、家の中に捨てられているゴミの多くが生ゴミだからである。
空のペットボトル、酒の空き缶、弁当や惣菜の空容器、お菓子の袋など、至るところに捨ててある。キッチンにあるテーブルには真っ黒になったレタスに生卵の殻。蓋もせずに放置されたスープの中には小さなゴキブリが何匹も浮いていた。
「生ゴミが多いゴミ屋敷でも、基本的にはキッチン周りにだけ生ゴミが集まっているものです。でも、この現場はキッチンだけではなくすべての部屋に生ゴミが捨てられている状態でした。だから、ゴキブリの量が尋常じゃないんです」(文直氏)
居間にできた生ゴミの山に目をやる。はじめのうちは食べ終わった弁当などを小さな袋に入れて山に向かって投げていたようだが、途中から袋にすらまとめなくなった経緯が見て取れる。
生ゴミから出た水分はだんだんと下に染みていき、ほかのゴミを浸食していく。ゴミの山を掘り返すと、床は泥のようにベトベトになっていた。
ゴミを覆い尽くす「黒い斑点」の正体
生ゴミを手で摑んでゴミ袋に入れると、周りから“ワサワサッ”と小さなゴキブリたちが這い出してきた。床や壁だけでなく天井にもゴキブリが這っている。ゴミをかき分けるたびに、空中にゴキブリが飛び回った。
テーブルの上にあった紙コップをどかすと、紙コップの周りを黒い斑点がふち取っている。あらためて家の中を見てみると、テーブルの上、空き缶、空容器などあらゆるものが黒い斑点をまとっている。上から大量の土をばらまいたかのようである。
「これ、全部ゴキブリの糞なんですよ」
文直氏はそう言ったが、あまりにも量が多すぎて信じられなかった。
このゴミ屋敷で子どもたちはどうやって暮らしていたのだろうか。1人はビールの空き缶が転がっている子ども部屋で眠っていた。ベッドのマットレスはボロボロに擦り切れ、ここにもゴキブリが棲みついている。
もう2人は居間のゴミの海の真ん中にできたくぼみに布団を敷き、母親と丸まりながら3人で眠っていた。
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