「負のスパイラル」阻止に金融面の役割は大きい--日本銀行副総裁 山口廣秀

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──本質的な問題の解決に向けて欧州が求められていることは。

ユーロという単一通貨制度の維持可能性との関連では、財政統合の模索と問題解決に向けたガバナンスの強化が問われている。

前述のように、欧州ソブリン問題の本質的な解決は、財政再建と対外競争力の向上に帰着する。長期的に見れば、欧州域内において財政バランスを統合的に調整できるような仕組みが必要かもしれない。域内各国が民主主義の下でさまざまな意思決定をするには、一定の時間がかかる。しかし、とにもかくにもそのためのガバナンス強化が必要だろう。長い目で見れば、最終的にこうした仕組みの構築とガバナンスの強化が図られないかぎり、単一通貨「ユーロ」の存続可能性を確保することは難しいのではないだろうか。

欧州のみならず米国の状況も併せて考えれば、先進国が財政問題を共通の「病弊」として抱えるようになった。各国・地域で問題や原因に違いはあるが、大きくとらえると、背景には広い意味でのバブルの崩壊とその対処のための財政対応があることは共通している。バブルの後始末と経済の潜在成長力の低下に直面する中、景気下支えのための減税・財政出動も繰り返し実行されてきた。今回の欧州ソブリン問題を含む財政の問題は、先進国がかつてのようなエネルギーを失ってきた中で起きている事象ともとらえられるだろう。

日本も同様の問題を抱えているが、先進国の中では早くからこの問題への意識を高めてきているだけに、場合によっては、そこからの立ち直りは早いかもしれない。そのための基盤は、金融機関の健全性と金融システムの頑健性が確保されていることである。楽観は許されないが、こうした強みをばねにして国際競争に勝ち抜き、日本経済が回復していくことを期待している。

やまぐち・ひろひで
1951年神奈川県生まれ。74年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。96年高松支店長、2004年企画局長を経て、06年日本銀行理事に就任、08年10月以降、同・副総裁を務める。

(聞き手:浪川 攻、井下健悟 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済2011年11月12日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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