「負のスパイラル」阻止に金融面の役割は大きい--日本銀行副総裁 山口廣秀
世界経済の先行きと欧州債務危機をどう見るか。その深層は何か。日本の金融当局者としては初めて、独占インタビューの場で山口廣秀・日本銀行副総裁が語った。
──欧州ソブリン問題の現状をどう見ていますか。
10月27日、欧州首脳会合で債務問題に対する包括戦略が合意に至ったが、直後の金融市場の反応はかなり良好だったといえる。問題解決に向け一定の前進が得られたとして、市場は欧州当局の取り組みを基本的に評価したということだろう。
ただ、今回の欧州ソブリン問題の背景には、ユーロ発足以降、単一の通貨制度と単一の金融政策の下で、ギリシャやポルトガルなど欧州周縁国を中心に、経済の実態に見合わない低金利が続いたことがある。
これらの国々では、単一通貨ユーロの信認を背景に資金調達が容易になり、国債金利が低位で推移したこともあって、財政規律が失われてしまった。典型がギリシャであり、緩和的な金融環境が、結果的に放漫財政の継続を支えた面は大きい。また、企業部門でも非効率な設備投資や過剰な雇用など放漫経営が生まれ、対外的な競争力の低下を招いた。
こういったあたりが同問題の本質の一つだろう。低金利下で金融部門が政府や企業の資金調達を過度にサポートし、結果として政府や企業のバランスシート(BS)の膨張につながった。金融機関自身のBSも肥大化した。現在、欧州周縁国を中心に起きていることは、バブル期に日本で生じたBS調整の問題と似た構図になっているように思う。
今回の欧州首脳会合での合意内容の柱は、ギリシャの債務削減、欧州金融安定化基金の資金供給能力の拡充、欧州金融機関の自己資本の増強である。短期的な処方箋としては評価できるが、当該国の財政の歳出・歳入構造を改革し、企業の対外競争力を高めていくには、今回の合意だけでは必ずしも十分といえない。合意によって得られた時間的な余裕の中で、関係当局がどこまで問題の本質に迫る対応を実現できるのか。大きな課題はそこにあると見ている。
──金融資本市場の動揺はどう分析しますか。
ギリシャ問題が現在までに金融資本市場に及ぼした影響を整理すると、欧州系金融機関に対する信認の低下と、グローバルな投資家のリスク回避姿勢の高まりの二つに分けられる。