「負のスパイラル」阻止に金融面の役割は大きい--日本銀行副総裁 山口廣秀
欧州ソブリン問題が大きくなり、これらの国の国債価格が下落する中で、それらの国債を保有する欧州系金融機関の信認が低下し、市場ではカウンターパーティ・リスクが強く意識されるようになった。米国のマネー・マーケット・ファンド等が欧州系金融機関に対する資金放出を慎重化した結果、それらの金融機関ではドル資金などの調達が困難化した。これは単に量的な問題だけではなく、調達コストの上昇にもつながった。このため、周縁国等での貸出金利上昇が見られるなど、金融機関の与信行動を慎重なものとし、ひいては欧州域内を中心に金融仲介機能の低下を招くに至っている。
一方、グローバルな投資家はもともと市場環境が良好な場合には大胆にリスクを取りに行く反面、市場環境が変われば資金を一気に引き揚げてしまう。最近では「リスクオン」「リスクオフ」という言葉が使われているが、今回のソブリン問題が発生して以降、基調としてはリスクオフの流れが続いてきた。欧州域外については、これまでグローバルな投資家が新興国にかなりの資金を投入してきただけに、逆に資金が流出するのではという不安感が、アジアを中心とする新興国で出始めている。
欧州危機の波及経路は世界経済も日本も同じ
──欧州系金融機関への信認低下は、どのように波及しますか。
財政を出発点に金融機関・金融システムに波及し、これが実体経済にも波及するという経路が考えられる。財政・金融・実体経済の間の「負の相乗作用」ということだ。
具体的にいえば、周縁国を中心とする財政の持続可能性への懸念から当該国の国債価格が大きく下落し、当該国債を保有する金融機関のBS悪化を招き、金融仲介機能の低下につながる。すると、結果として意図せざる金融引き締めが生じ、景気を下押ししてしまう。景気後退となればさらに財政バランスが悪化し、金融機関のBSが傷み、金融仲介機能がさらに低下するという負のスパイラルが生じがちだ。現在、欧州において負のスパイラルが深刻な形で生じているとは思わないが、徐々に「負の相乗作用」が働き始めているのではないかと見ている。