「負のスパイラル」阻止に金融面の役割は大きい--日本銀行副総裁 山口廣秀
──金融機関が保有する貸出債権の劣化が広がる懸念もあります。
今回の合意では、ギリシャ国債の元本カット率は50%へと大幅に引き上げられる方針だ。このため金融機関にとってはさらにロスが拡大する可能性が出てくるうえ、緊縮財政策を採っている周縁国の景気が悪化すれば、企業倒産や個人破産などが増え、金融機関の貸出債権の劣化が進む可能性が大きくなるように思う。
──グローバル経済にはどのように影響を及ぼすと見ていますか。
三つのチャネルがあると考えている。一つ目は金融面のチャネル。欧州系金融機関の信認低下とグローバルな投資家のリスク回避姿勢が強まることで、欧州域内はもとよりグローバルに信用の収縮が連想され、世界の株価が下落するとともに、安全通貨の為替レートが上昇する。
二つ目は実物面のチャネルだ。昨年来、ギリシャなどでは財政問題の解決に向けて緊縮財政策が行われている。そこに信用収縮の影響も加わって、欧州景気が悪化すると、貿易取引を通じて世界全体の景気にも下押し圧力がかかる。
最後がマインド面を通じるチャネルだ。金融資本市場の大きな動揺の下で、欧州の企業や家計のマインドは悪化している。米国でも、株価下落の影響もあって、マインドの悪化が見られている。日本では、あまり大きな影響は見られていないが、少しずつ懸念は広がっている。いずれにせよ、マインド面を通じての景気への下押し圧力は、金融仲介機能を低下させる力を持っている。
──現在、重視すべきチャネルは。
金融面のチャネルを通じた信用の収縮がグローバルに波及し、それが欧州発の世界貿易の縮小・世界景気の後退に発展するような事態は避けなければならない。そのためにも、欧州における金融仲介機能を、極力維持していくような努力が求められる。財政立て直しの中で、財政面から景気を下支えすることは難しいだけに、信用収縮を起こさないような金融面の努力が重要である。欧州ソブリン問題の影響をグローバルに広げないという観点からも、金融が持つ意味は大きい。