「窃盗でデジタルタトゥー」身分偽る青年の人生 ある日、見知らぬ青年から「助けて」とDMが届いた
この時、財布に残っていたのは1000円札2枚と100円玉2枚の計2200円だけだった。
「年末から戻ってこない」
年が明けた2020年1月3日、施設から連絡があった。ルイトが入所3日後に外出したまま帰宅しないという。
危機的状況で見つけた居場所をなぜ手放すのか。不思議に思いながら彼にラインで安否を尋ねると、退去したはずのアパートがある福岡県福津市に戻ったと返信がきた。
彼はそれまで、苦労が多かった幼少期の出来事や具体的な住所をよどみなく語っていた。しかし、この後は一転して彼の話に疑念がつきまとうようになる。
福津市で彼と落ち合い、以前住んでいたというアパートを訪ねると、確かに存在した。
だが、事前に聞いていた104号の部屋を訪ねると、ルイトの名字とは違う名前の表札が掛かっていた。
彼の方を見ると、「俺が出てから新しい人が入ったらしいです」と真顔で答える。
念のため隣の103号室のチャイムを押す。出てきた高齢男性は「104号室には家族が長年住んでいる」と話した。少なくともここ数日で引っ越してきたという事実はなかった。
事実とうそを混ぜ合わせ、自分の都合に合ったストーリーを作り出しているのではないか。疑念が確信に変わるまでにはさらに3週間がかかった。
明かされた本当の名前
「ルイト君の本当の名前が分かりました」
2020年1月23日、彼の支援者から着信があった。電話口で聞いた名前をネットで検索すると、ある事件を伝えるニュースが表示された。
彼は約10年前、東京都内で窃盗事件を起こしていた。人を傷つけるような事件ではなかったが、当時テレビが報じたニュースはネット上に転載されたまま今も残っている。
そこには、警察から検察庁に身柄を移送される際の彼の顔が鮮明に写り、容疑者として彼の本名が映し出されていた。