「窃盗でデジタルタトゥー」身分偽る青年の人生 ある日、見知らぬ青年から「助けて」とDMが届いた
抱樸館福岡に入所する時、彼は今後の抱負を1枚の用紙にこう書いていた。
「生活を立て直し、一日も早く社会復帰し、仕事を見っけて、働きお金を貯め、更生していきたいと思います。お金の有難みを考え、働らける事に感謝して、一日一日を有意義に過ごしていきたいと思います」(原文ママ)
焦らずに生活を立て直そう。そんな話をしながら区役所を後にした。
しかし。彼はまた姿を消した。私が送ったラインのメッセージには既読マークが付かないまま、チャットからも退出していった。
警察からの一本の電話
福岡県警の刑事から突然電話がかかってきたのは2022年7月。“ルイト”と連絡が取れなくなって約2年がたっていた。
刑事は福岡市の九州大学箱崎キャンパス跡地で遺体が見つかった事件を捜査しているといい、おおむねこんな説明をした。
<遺体の身元がまだ分からない。今は現場周辺で行方不明になった人を洗い出して確認している状況だ。ルイトさんはその一人で、内部で調べても情報が出てこない。知っていることを教えてほしい>
“ルイト”が私に語った話がどこまで本当だったのかは正直確認のしようがない。取材で得た情報だったこともあり、警察に伝えられることは少なく、事情を説明して理解してもらった。
刑事からは後日、再び電話があり「ルイトさんの身元が分かり、遺体とは関係なかった」と報告があった。
犯罪者としてネット上に名前や写真が残り続ける「デジタルタトゥー」が彼の人生にどれほど負の影響を与えてきたかは、一概に判断できない。
しかし、過去に起こした事件と現在の生活を結びつけられることを恐れ、隠れるように暮らす人がいることは確かだ。
今は、前科に関するネット上の個人情報を削除要求すれば応じるサイトもあるという。”ルイト”にはその選択肢がなかったのかもしれないが、彼は逃げ続けることを選んだといえる。
”ルイト”の行方は今もわからない。
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