Z世代を通して見える「社会に余裕がない」原因 賢い人なら概念を厳密に定義できるという幻想

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勅使川原:わかりやすい(笑)。たしかに、潰れてしまっては本末転倒ですね。

舟津:そうなんです。だから、企業も形やフリだけの環境配慮をしてしまうんです。環境に配慮しろって言うけど、業績が悪化したら社会や市場は評価しないし、見捨てるでしょと。世の中で叫ばれる課題にも、そういう白々しさがある。

勅使川原:企業はそれを重々承知のうえでやっているということですね。

余裕は誰かに受け止めてもらった経験から生まれる

舟津:わかっているのは学生たちも同じです。だから、私は学生たちに対してはそういう白々しさは出さないように極力努めています。どうせバレているので。

たとえば、この授業ではあなたの言いたいことを言っていいよと伝えても、変なこと言ったら怒るんでしょ、みたいな反応は絶対あるんですよ。結局はいい子な発言しか許さないんでしょって。だから私はちゃんと振り切るようにしてて、全部受け止めますよと。最初は様子をうかがう感じなんですけど、次第に学生に伝わっていく。だからたまに授業後のアンケートでも、「本当に何を言ってもいいので驚いた」みたいなものをいただきます(笑)。

働くということ 「能力主義」を超えて (集英社新書)
『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

勅使川原:それはすごい(笑)。私は自分の本の中で、余裕を誰かに受け止めてもらった経験に結びつけて書いたんですけど、何であっても誰かに受け止めてもらえたことが余裕につながって、自分を信じる根拠なき何かになるのかもしれないですね。

舟津:まさにそうだと思います。

勅使川原:でも、何でも受け止める人って、教員の方でもたぶん10人いたら1人ぐらいな印象があります(笑)。

舟津:私自身が「多様性の時代だから何でも受け入れますよ」みたいなスタンスではないのがよいのかもしれません。それって結局は私の意思じゃなくて、他者が求めるからしてるってことなので。私自身は不誠実で、何でも受け入れるってほんまにそんなんできるんかい、と疑問を持っているから白々しくないのかもしれない(笑)。

勅使川原:ひねくれた視点ですけど、それがかえっていいのかもしれませんね。さっきおっしゃった「どうせバレているので」っていうのも、地に足のついた誠実さだと感嘆しました。憎い!(笑)

(8月29日公開予定の第3回に続く)

勅使川原 真衣 組織開発コンサルタント

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てしがわらまい / Mai Teshigawara

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。だいわlog.「組織のほぐし屋」、朝日新聞デジタルRe:Ron「よりよい社会と言うならば」、論壇誌「Voice」(PHP)などで連載中。

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舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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